紙一重の恋慕帳
「君は僕にとって教祖様なんですよね。高峰くん」
「はぁ?何だよ教祖様って」
「宗教ですよ。ほら、キリストムハンマドお釈迦様みたいな」
「いやそれは知ってっけどよ。何で俺が教祖なんだよ?」
「だって僕多分正気じゃないですし」
「……まさか自覚ありなのか?」
「多少はありますよ。特に今日なんか、街中ざわざわして落ち着かない。日本人のほとんどが寂しさを埋めるためにクリスマスを祝うでしょう?みんな正気じゃなくて、天井に張り付いた風船みたいに心が浮ついてる。今年はね、僕も同じなんですよ。高峰くん」
「なるほどな、つまりお前は寂しくなったんだな。くだらないと思ってたクリスマスに、俺に会いたくなったのかよ。ばか原くんは」
「君には常日頃から会いたいと思ってますけど、まぁそういうことです。僕はまるで信者みたいに君に入れ込んでいるんです。……高峰くん、」
「……なんだよ」
「好きです」
「……知ってる」
「はい。だから、少し待っててほしいんです。高峰くん」
「何で俺が待つんだよ?」
「僕の救済をするためです。高峰くん」
「救済?おいばか原、俺に教祖だかなんだか言っといて自分はキリストにでもなったつもりかよ?」
「まさか。僕、聖人じゃありませんし」
「キリストって聖人なのか」
「イエス」
「しょうもねぇ」
「とにかく、もう少しで終わりそう、というか始まりそうなので、ね」
「何するつもりだよ」
「それは君が知らなくていいことです。でもね、少しの間君と過ごす時間が減るかもしれないんです。だから君が拗ねてしまわないように、先に言いました。高峰くん」
「……言えよ。気になるだろうが」
「嫌です。言ったでしょう、君は教祖様なんです。僕は信者として君を守ります。絶対です、約束します。だから君が好きです。……ふふ、高峰くん可愛いお顔が真っ赤ですよ。怒ってますか?」
「怒ってねぇけど、何でそんな言い方すんだよ。まるでお前は、あれ、なんて言うんだっけな、目が見えない恋みたいなやつ」
「……恋は盲目、ですか?高峰くん」
「あぁ、そうそれ。お前が正気じゃなくて狂ってて変なやつだから俺のこと好きみたいじゃねぇか」
「だったらだめですか?高峰くん」
「いや、だめってことは……ねぇけど。まぁそれがお前だから、間違いではねぇけど、だからって周りが見えなくなるのは違うだろ」
「どうしてですか、高峰くん」
「どうしてって、ばか、ちょっとは自分で考えろよ」
「別に僕、周りに認められたいとか思ってません。君以外どうでもいいです」
「……分かってねぇな、七原くんよ」
「何がですか。高峰くん」
「んなもん、ロマンがねぇだろうが。宝箱だってな、すげぇ宝石がポツンと一個あるより硬貨とか地図とかごちゃごちゃの中から見つけ出す方が嬉しいだろ」
「……つまり君は自分がすげぇ宝石だと」
「例えだ例え!とにかく、無駄に敵を作るような態度はやめろ。この前もお前が赤沢に余計なこと言ったせいで反省文書かされただろ」
「え、書いたんですか?高峰くん」
「書いてねぇけど」
「じゃあ書かされたって言わないじゃないですか。高峰くん」
「でもあいつ、あれから毎回授業プリントと一緒に反省文の紙渡してくるようになってうぜぇんだよ」
「それどうしてるんですか。高峰くん」
「最初は捨ててたけど、もったいねぇなと思って日記書くようになった」
「え、反省文の紙に?」
「うん。だから前、勘違いした赤沢に読まれて恥ずかしかった」
「……高峰くん、そういうところですよ」
「はぁ?何が」
「僕にも読ませてください。高峰くん」
「……無理」
「あ、何ですかその反応は!僕の悪口でも書いたんでしょう、ひどいです!」
「わ、悪口じゃねぇし」
「でも僕のこと書いたんでしょう、高峰くん」
「……ちょっとだけだ」
「何ですかちょっとって。世界一信用できない言葉ですよ、それ。何事も初めなんですよ、初めが重要なんです。ちょっとだけだから、先っぽだから入らせてって言って本当に守った男がこの世に何人いるでしょうか?高峰くん」
「何の話だよ!」
「それはもちろん犬も歩けば当たるモノが人を呪って二つにになるモノに入る話ですよ、高峰くん」
「……棒に、穴……。やっぱど下ネタじゃねぇか!」
「嫌ですねぇ、勝手に想像して。クリスマスだからって浮かれてるんじゃないですか。性夜とか言っちゃうやつですか?高峰くん」
「はぁ?聖夜がなんだよ」
「……清シコの夜、みたいな」
「だからそれが何なんだよ」
「あ、いえもういいです。何か自分が恥ずかしくなっちゃったので」
「はん、クリスマスに恥ずかしがるなんて浮かれたカップルと慌てん坊のあいつだけだぞ、ばか原」
「ふふ。高峰くん、朝起きは何文の徳ですか?」
「……三文?」
「何人寄れば文殊の知恵です?」
「……三人」
「石の上にも?」
「……三年」
「そうです。そして、慌てん坊のあいつの名前は?」
「サンタクロース……!」
「気付きましたか?キーワードは"三"なのです。つまり、クリスマスに恥ずかしがるのは三人なのです。高峰くん」
「だ、誰なんだあと一人は……」
「僕です」
「おいおいまじかよ!お前、一体何者なんだっ」
「嘘です」
「……七原から3を引くと?」
「……四原?」
「つまり四文字の"
「四文字……」
「そうだ」
「はっ、分かりました!しあわせの
「シモネタの
「……何の話でした?高峰くん」
「知らねぇよ!お前が始めたんじゃねぇかばか原!」
「まぁ、いいですけどね」
「何がだよ?」
「何でもです。高峰くん。クリスマスに君と一緒にいるってだけで、どれ程幸せか。ふふ、きっと君には分からないでしょうけどね」
「…………別に……俺だって、分かる」
「はい?ごめんなさい、聞こえませんでした」
「何でもねぇ!浮かれてんじゃねぇっつったんだ!」
「ふふ。そうですか、高峰くん」
「……ふん」
『今日は朝から雨で教室がうるさい。小学校に戻ったみたいで落ち着かない。
3時間目は自習だったからサボろうと思って教室を出たら七原がついてきてやがった。第二理科室に入るまで全く気付かなくて悔しかった。上着忘れて寒がってたら七原がどこからともなくブランケット出してきてぐるぐる巻きにしてきた。俺1人だけなのは何かムカついたから七原も入れてぐるぐる巻にした。雨の音が静かでひんやりしてて、珍しく七原が眠そうで、なんか土曜日みたいで、悪くなかった。』
『昨日夜にコーヒー飲んだせいで腹痛いし眠い。あくびがとまらねぇ。前に七原があくびが出るのは酸素不足だからだって言ってた気がするから思いっきり息吸い込んでんのに全然とまらねぇ。葉っぱの近くで深呼吸したらすげぇ酸素取り込めるかもしれない。
七原に腹痛いのバレて保健室に無理矢理連れてかれた。心配そうな顔してるけどコーヒー飲んだせいだっつったらふんにゃりした顔で笑ってた。ふんにゃりしてた。なんだふんにゃりって。でれでれの猫みてぇな顔だった。』
『体育で持久走が始まって面倒くさい。寒いのにジャージ着たらなぜか俺にだけ赤沢がブチギレてきてうざい。国語の教師のくせに。七原はほとんど見学してたけど1回だけ走ってるとこ見た。走ってるのに全然疲れてなさそうだった。姿勢がしゃんと伸びてて綺麗だった。姿勢が。
体育の着替えでやたらと視線を感じた。いつも体育サボった七原が壁みたいになって俺のこと隠してくるけど今日はいなかった。何で体育出た時にいないんだよ。』
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