アジェリとお月様

@okataka

第1話

真ん丸お月様が夜空にぷっかり浮かんでいます。秋の虫たちもお月様に向かって讃美歌をうたっています。

「こんなに大きなお月様を見たのは初めてじゃ。」

子熊のアジェリはくるくるとはしゃいでいます。母熊のリースラはそんなアジェリには気も留めないで、ドングリをもぐもぐ、くんくんと食べていました。

「母さん、どうしてお月様はこんなに大きいんじゃろう?」

「それはお月様が美味しいものをたくさん食べたからでしょう。」

「母さん、どうしてお月様の光はこんなに明るいのじゃろう?」

「それはお月様が美味しいものをたくさん食べて大きくなられたからでしょう。」

「母さん、それならお月様は一体どんなものを食べているのじゃろう?」

「それは私たちのように、ドングリや鮭や、それはそれはいろんなものを美味しく食べておられるのでしょう。」

そこまで話を聞くと、アジェリはハッとしました。

「母さんもとっても大きいから、いつかはお月様になってしまうのじゃろうか?」

リースラはドングリを食べるのをやめると、スッと考えてから

「それはまだまだ先の話じゃが、もう案外そうかもしれませんね。」

と、アジェリの方を振り向いて言いました。

アジェリの背中に急にゾクッとしたものが走りました。なんだか胸とお尻がムズムズするような変な気分になって、母さんがとても恋しくなって、はしゃぐのをやめて一目散にリースラのお腹の下に駆け込みました。そうして今はもう小さくなってしまったリースラの乳房をずんずんと鼻でつつきました。母さんの温かな肌が鼻先にふわりと沈みます。

「これこの子は、急にどうしたんじゃ?もう立派な兄さんじゃと言うておったのは何処のどなた様じゃった。」

リースラは怒ったような笑ったような優しい声でアジェリを前足の間から覗き込みました。「母さんがお月様になっておらんか確かめてみただけじゃ。」

アジェリはひょこりとリースラのお腹の下から出てくるとリースラと並んでドングリをふんふんと探し始めました。お月様は二人に白絹の明かりを届けてあげました。アジェリは背中にふわりとお月様が降りてきたのを感じました。ドングリはキラキラと輝きだします。

「母さん、お月様は母さんじゃ。」

リースラはアジェリの頭をそっと鼻で撫でました。

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