128.覚悟はいいか?
後ろから思いっ切り尾を掴まれた。
「っぎゃあああ!?」
痛みと驚きで飛び上がって振り返る。視界がぐるんと回って輪郭を失った景色が形を取り戻すより速く、尾を離した手が私の左腕を掴んだ。尾を掴んだ時よりも遥かに強く走る痛みに、思わず呻く。
「あんた今、あたしを助ける為に悪魔の腸使おうとしたやろ」
どうして分かったのだろう。引き返していた裁が、そう目の前で凄んでいた。
あれだけ怒鳴っているのにまだ全身から滲む底の見えない激しさに圧倒され、石でも飲まされたように言葉が出ない。
私達を串刺しにしようと、辺りの腐肉の絨毯から槍のような触手が飛び出した。気を取られる私に構わず、裁は話し出す。
「あたしとあんたは対極の人」
腐肉の槍を、追うように跳んでいた蛆達が食い散らかした。散った液体と眼球が、恨めしげに辺りを舞う。
「なんちゅう支離滅裂で、何を選んでも幸せになられへんような性格してるんよ。どっちに転んでも
激浪を齧り続ける蛆の群れを、再び絨毯状の腐肉から伸びた触手が貫いた。更に小さな蛆となって動き出すまでの数瞬で、その砕かれた身の異様さに目を奪われる。カクタスグリーンに潰されて色味は分からないが、どこか見覚えのある軟質の物体が、所々にこびり付いていた。
「虫共に街の守りに就いていた魔術師の死体を仕込んだな!?」
先に気付いた劇場支配人の悪魔が嘲った。
「成る程流石は、
劇場支配人の悪魔より下位の
言葉も出ない精密さで具現化された執念と狂気の群れを、劇場支配人の悪魔は痛く気に入ったようで、イカれたように笑いが止まらない。
「カッハッハッハッハッハッハッハッハッハ! あーァ忘れてなんてない、お前も最高だよ裁! 如何なる時も己にのみ忠誠を誓い、責務の如く他を踏み躙りその上に立ち続ける! その〝魔の八丁荒らし〟に相応しき底無しの残虐性と執着心、死に際まで楽しませてくれよ!?」
劇場支配人の悪魔は今度こそ粉砕してやろうと、蛆の群れへ
劇場支配人の悪魔が息を呑んだのを、コヨーテの耳が拾った。それを感じ取りながら、半壊された蛆達へ目を凝らす。蛆が砕かれる度に晒す内部にこびり付いている肉片に、薄い膜のような欠片が紛れていた。
街で何度も見た事がある、駆除業者のポスターが脳裏を過ぎる。
そうだ、見慣れて気にも留めていなかったが、人間の家やビルに住み着き、人間のいない土地ではまず暮らさない奇妙さから駆除対象となっている
裁はまさに
壊されながらも止まらない蛆の突進に、腐肉の絨毯は蛸足のような触手を無数に伸ばした。押し返そうと激浪を支えながら、蛆達を叩き潰していく。蛆に傾いたばかりのぶつかり合いは、呆気無く攻勢を手放した。途端に裁が怒りでも苛立ちでも無く、初めて悔しげに舌打ちするのを見て悟る。
もうこの戦いは、決着する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます