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50.八丁荒らしの見せ場はここからさ!
走るは真一文字の衝撃。
それは墨をぶちまけたように黒い尾を引き、芋虫も繊毛のような細腕の大群も、一息に両断して塗り潰す。湧き出す瓦礫と粉塵も巻き込んで、部屋そのものすら断ち切るような一筋に肥えて裁を飲み込んだ。黒の激流にキャビネットもシャンデリアも、紙屑のように吹き飛んで攫われる。
失速していく激流を躍る〝患者〟の瓶が、更地のようになった部屋へ降り注いだ。消えて行く黒を裂きながら床を埋め尽くし、瓶のボールプールを作り出す。
その光景を見届けていた私は、瓶を打ち上げながら部屋の中心へ着地した。漂う黒の残滓が瓶で消し飛ぶも、シャンデリアを失い灯りを絶たれた部屋は依然暗い。
気配が矢の如く背に迫る。
振り返りながら尾を薙いだ。尾とぶつかり合う気配の輪郭が、闇を照らすように火花を散らす。腹から両断された気配の正体は、捩じれた金属で出来た、シャンデリアより一回りは小さくも巨大な塊。
すぐに出所が分からず訝しむ。
各キャビネットにかかっていた脚立か?
こいつを放ったのは裁だ。まだ姿は捉えられていないが、こんな現象が起きている以上生き延びているのは間違い無い。だがさんざ無視していた脚立を何故今頃?
両断された脚立の塊が離れ、視界が急速に開ける。その向こうでは濃霧のような灰色の粉塵が、不自然に集中して立ち込めていた。既に見慣れているモルタルの粉塵の筈だが……。
右手から飛来した何かに胴を突き抜かれた。
衝撃に攫われ足が浮く。左側腹部から突き出た何かは床を穿ち、百舌鳥の早贄のように私を縫い付けた。ビビットオレンジの血が私を貫いたものの軌跡を描く。
崩れそうになる身を支えようと、咄嗟に両足で踏ん張った。潰れた臓腑が噴いた血が、気味の悪い満腹感を孕む激流となって喉を走り堪らず吐く。
血の塩辛さを忘れる程動揺したまま、右側腹部を見下ろした。刀の柄が突き出ている。続けて左
阿部さんの刀だ。
……今頃脚立だの目くらましを使ったのは、壊れた阿部さんの刀を
不自然な灰色の粉塵が急激に範囲を狭め、その集約点から裁が飛び出す。
私が姿勢を崩す瞬間を狙ったように疾駆する裁へ、右腕を放った。掴む左腕だったものを向けられた裁は息を呑む。鼻先に迫る左腕だったものの先端を、
辺りの床から胴回りが私ぐらいもある、人の指を模したモルタル塊が竹林の如く湧き上がった。だが左腕だったものから放たれていた墨のような尾が、それらを覆うと嚙み砕くように破壊する。
「破戒の犬が!」
「悪魔
憎悪に燃える裁の目が、刎ねるように首へ向けられた私の左腕だったものに微かに映る。
今やそれは、阿部さんのものよりまだ古く、形を保っているのが不思議なぐらいに錆び付き傷み切った
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