39.何て身軽な快進撃!
〝患者〟が収められた部屋の作りに大差は無く、どれも受付から伸びる廊下としか繋がっていない。瓦礫に埋もれるように床へ倒された私は、起き上がろうと上体を持ち上げた。
「クソ……!」
粉塵の向こうから、悠然と
「……泥をこねて人形を作った所で、完成するまで言う事を聞くか分からない。持ち運ぼうとすれば、小さなものを少しだけしか作れない。ガラクタに自分の意思を実現させる魔法なんて使うぐらいなら、自分の手から火を放つ魔法でも使う方が賢明だ。材料が無ければ何も出来ない最弱の魔法使い、
私は立ち上がると、壊れていないキャビネットに背を預けて隠れた。粉塵が晴れるまで一分ぐらいか。
辺りに目を凝らしながらがなる。
「うるせえぞ手品師が。ただの
「耳がいいんですね。私は
声の方向から、こちらの部屋に繋がる廊下を歩いている最中。
裁の居所を掴むと走り出す。粉塵を振り払いドアを蹴り破って猛進すると、寒々しい廊下の遥か遠くで裁を見た。更に加速しようと強く踏み出す。
だが裁はゴーレムを用意するという事前準備をすっ飛ばし、目ぼしい材料を見つけるとその場でゴーレムを作って命じてみせた。丸木杭もその場で作ったのだろう。腕の束と言いどれも灰色だったのは、〝館〟の建材であるモルタルを拝借したからだ。優秀なのでは無く、要領が悪い。
跳ね回らせる程度で終わるが石に空を飛べと命じる事は出来るように、命令そのものは拒否されないのも
先の大男も一瞬で作ったように見せているだけで実際は、天井のモルタルに寄り集まってゴーレムになれという
そして魔法の動力源は、魔術と同じく生命力。使えば脳にも筋肉にも疲労が溜まり、限界を超えれば絶命する。この短時間で法外な回数の
一直線に距離を詰める私を阻むように、眼前の床から先と同じデザインのゴーレムが湧く。ゴーレムは現れるなり、右手に握った棍棒を振り上げた。棍棒は天井を削りながら、真っ直ぐ私の頭へ打ち落とされる。
「てめえはコソコソと下らねえな!」
棍棒が頭に届く間際で、ゴーレムの右下膊を左下膊で受け動きを阻んだ。左半身にゴーレムの腕力と棍棒の重みが伸しかかり、足元の床に亀裂が走る。
その圧力を支えに足を急停止させつつ、右の拳でゴーレムの腹を打った。ゴーレムの胴は、腹から上下で分かれるようにぶち折れる。
透かさず左手で奪った棍棒へ、右腕を引き戻した。棍棒をバットのように構え、落下していくゴーレムの上部に意識を集める。
集中の所為か、時間の流れが停滞した。鈍臭く流れる刹那の中、狙い澄ましたゴーレムの頭部を打ち抜く。砲弾の如く放たれた頭部の目標は、裁の顔。
走る頭部は影となって裁の顔に浮かび、辟易するような表情を浮かべる奴の前髪を跳ね上げた。
裁を守るように両脇の壁がせり出し、分厚い一枚に繋がると頭部を受ける。
阻まれた頭部は粉砕され、それを放つと跳んでいた私は壁の前へ着地した。頭部を阻んだ壁は迎撃するように、槍状のモルタル塊を突き出し眉間へ走る。
頭を右へ傾け往なした。遅れて流れた髪が数本断ち切られ宙を舞う。往なしながら振り上げた左腕の棍棒で、槍ごと壁を叩き割った。折れた棍棒を捨て、飛び散る壁の奥で目を見開く裁へ跳ぶ。空になった左手で両目を覆うように裁の顔を引っ掴み、そのまま後頭部を床に叩き付けて着地した。
「ここまでだ、ド三流」
まして命令対象の作成から始める裁の場合より細やかだ。作成には均一かつ連続で
「さあどうやって街に侵入した。お前の目的と、美術館での魔法使いとの関係を吐け!」
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