僕が恋したのは、お金持ちのお嬢様
月摘史
第1話ある日の出来事
僕が恋したのはお金持ちのお嬢様』
一目惚れだった。
彼女を一目見て、僕の好きな人なんだと。
脳天から足先まですらりとした体型、ずっと触ってたくなる唇、何もかも見据える鋭い瞳。そんな彼女の全てが僕の心を動かした。
勿論、そんな理想の彼女の事が好きになるのは僕だけでは止まらない。現に僕の通う高校の大半の男子はみんな彼女の虜と言っても過言ではない。それほど彼女の魅力に惹かれた者は少なくなかった。
そんな理想的な彼女なのだが、引っ掛かる事が一つあった。
それは、『お金持ち』だったのだ。
世間一般的に『別にいいじゃねぇか』とか『何ならサイコーじゃん』とか意見はそれぞれある・・・。だが、かれこれ生きて十数年、僕は特に得意なこともなく、才能もなく、『目立った事』もない人生で、お金持ちで目立ちまくりの彼女と釣り合うわけがないのだ。
だって考えてみて? お金持ちの彼女は同性は勿論、異性からも常に視界に入れられて目立つ存在。に対してお金もなければ異性からも、何なら同性からも好かれない僕は、側から見たら彼女の奴隷のようなポジションだ。
『これのどこがカップルに見えるんだー!』って、考えると叫びたくなる。
僕が彼女に好意を寄せるのには問題はない。だが、好意を寄せるからにはお付き合いしたい‼︎
けど、もし仮に付き合えたとしても、周りからの目が僕の心を沈めるに違いない。そうなったら立ち直れる勇気すら湧かないのが、この僕、「楪律紀」なのだ。
*
早朝七時五十分。登校中、僕は学校の校門前で足を止めた。
辺りを見渡すと、同じ制服を着た人達も僕と同様、足を止めその場で立ちすくんでいる。
それは何故か・・・その理由は、僕含め周りの視線の先にあった。
「うわぁ、すごい」
あまりの驚きについ声を漏らす。耳を集中させると、僕以外にも驚き声を上げてる人は多々いた。
それもそう。登校する人の足を止めるほどの注目度がある『リムジン』が、校門の前に止まってるのだから。
「ぱっと見、六メートルぐらいかな。全体黒の塗装で、タイヤは某有名メーカーの物か」
これはすごい。車の知識がない僕でも、相当なお金をリムジンに掛けてるんだとわかる。
誰しも車に興味がなくとも、リムジンぐらいは知ってるだろう。現に周りも、リムジンだと理解した上で足を止め、眺めているのだから。
だけど、まじまじ眺めてるうちに、僕はもう一つの衝撃を視界に入った。
それは、車両の中だ。
「お、ドアが開いたぞ!」
そう誰かが声を出すとともに、リムジンの扉が開ききった。
「やっぱりか。予想はしてたけど本当にいたとは、『ボディーガード』」
車内から降りてきたのは四人のボディーガード。全身黒いスーツに覆われ、中には白いシャツらしきのも着ている。顔バレ防止かサングラス身につけて。まさにドラマとかで見たそのものだった。
二人のボディーガードが校門前で待機し、もう二人は開いた扉の左右で、誰かを歓迎するかのように待機している。
そして・・・リムジンから出てくる人影が、道に映し出された。
その人物こそ、『神名部結愛』だ。
「神名部さんだ」
「すげぇ登場だな」
「朝からこれは・・・やっぱ神名部家は違うなー」
車内から降りただけでこの騒ぎ様。これだけの人から注目されるとは、僕だったら慌てふためく事態だが、彼女からしたら日常茶飯事。それが彼女との環境の差だ。
リムジンから降りると、横にいたボディーガードと並走して、門へと神名部さんは入っていった。
それに続けて立ちすくんでいた人らも続けて校門を抜け、一気にその場に静けさが押し寄せる。
僕は神名部さんの乗ってきたリムジンを最後まで眺めた後、学校へと登校した。
*
「ようやく終わった〜」
六時限目の授業終了のチャイムと共に僕は教室を後にし、人気の少ない廊下を一人で快走とした。
向かう先は僕の入っている『新聞部の部室』。今は特に活動はなく、ただ静寂なとこで読書する目的のためだけに使用している。
部室は校内の三階で、今いるところから一つ階を上がってすぐ真前にある。
「この階段を上がれば・・・」
そう独り言を発しながら、階段の一段目に足を踏み入れた。
踊り場辺りで僕はふと足を止め、辺りを見渡した。何とも言えない違和感が身体中を巡る感覚がある。原因はわからない。けど、いつもと違う部分があるような無いような・・・曖昧な気持ちだ。
疑問に思いながらも、再び階段を駆け上がり、部室の前まで辿り着いた。
部室は鍵穴が壊れており、誰でも開けられるというがばがばセキュリティーで、鍵を必要としない。
扉を開けると、見慣れた風景が視界いっぱいに広がる。どこまでも広がる青い空に、部室のど真ん中に長方形の大きな机が一つと。
部室に入いるとすぐさま僕は椅子に座り、バッグから本を取り出した。
「さてと、読み始めますか」
そう口にしながら、本の一ページを捲る。
その瞬間、もの凄い勢いで部室の扉が開く音が耳に入った。
あまりの騒音にすぐ顔を向けると、扉越しに佇んでいたのは、あの『神名部結愛』だった。
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