第6話・とっさの治癒魔法とギルドの規約


「ああ……すいません。どうやら助けて頂いたみたいで……」

「あの……治療費は幾らお支払いしたら良いでしょうか?生憎と手持ちは少なくて……分割払いでお願い出来ますか?」

「えーと、単なる治癒魔法ですし、冒険者仲間なのでお金は要りませんが……」(うーん、治療費……)

《それは駄目だろアリシア!》


「アリシア様、それは絶対にいけません!冒険者の行為は全て自己責任です。このような幸運が何度も起こる確率は奇跡的です。治癒魔法は傷薬やポーションと同じく対価無くして使うべきでは有りませんから!」

「うーん、名もない村にいた時は傷薬やポーションの対価って野菜のお裾分け程度だったので困りましたね」(別に減るもんでも有りませんし……)

《あのな、アリシアよ。ここは町だぞ?しっかりと貰う物は貰わんといかんだろ。彼等がアリシア目当てで無茶をする危険も有るのだぞ?》

(すみません師匠…)


「あの……無料は流石に……瀕死の怪我を治して頂いた恩は返したいのですが……」

「アリシア様、燕団のリーダーもこう言っておられますから、ちゃんと治療費を請求して下さいませ」


 ターシャと燕団のリーダーから促される形でアリシアが提示した治療費は、ポンチョの酒場での料理と薬草類の採取と云う異常に安上がりなものだった。


 流石にこれは少な過ぎて話にならないのだが、当のアリシアは真剣にこれでも貰い過ぎかと思っている辺りが価値観の違いである。


「本当に酒場で料理を奢る位で良いのでしょうか?治癒魔法での治療は安くても金貨十枚はする筈ですが……」

「アリシア様……あまり治癒魔法の安売りはしない方が宜しいかと」

《あー、助けてしまったなら仕方あるまい。飯の一つや二つ、本日採取した品を対価とせよ。分かったなアリシア》


「えーと、今回はたまたま居合わせて、燕団の方々に確認せずに治療したんですから今日の晩ご飯と薬草で治療費をお願いします。次からはちゃんと治療費を請求しますから」(うん、今日は白金貨と金貨を沢山稼ぎましたし……)

《ま、その辺が落しどころだな》

「アリシアさん、ありがとうございます!もしも、何か有りましたら俺達燕団に声を掛けて下さい!俺達はこの恩を終生忘れません!ちょうど薬草も大量に採取して来てますのでどうぞ納めて下さい!」



 燕団は背負籠をならべ、薬草を80枚、上薬草を35枚、ハーブを96枚、ヒールハーブを18枚、毒消し草を8枚、麻痺解き草を5枚、ゴブリンソードを3本とゴブリンの魔石を3個アリシアに渡しますが……これは銀貨数枚分の価値しか有りません。


「えーと、ゴブリンソードと魔石も?」(くれるんですか?)

《ふむ、小奴らは化けるかもしれんな》

「こんな物しかお渡し出来ませんが、どうぞ受け取って下さい!」


「はい、何か悪いですね。治癒魔法一回でこんなに色々と頂いてしまって」(うん、薬草のストック増えましたね……)

《うむ、今回はコレでよかろう》

 やはり、アリシアと師匠は分かっていなかった。治癒魔法は奇跡の技で世界中で使える人間は100人程、リアナ大陸の東側には200近い国々が有るものの、聖者や聖女と呼ばれる治癒魔法の使い手は30人に満たなかった。


 しかも、このエレノの町は東の辺境の更に辺境であり、魔法使いが居る事自体が奇跡だった。エルト小国で確認されている魔法使いはアリシアを含めればたった2人だけだった。


「アリシア様……治癒魔法は奇跡の技として認識されておりますので軽々しく使って良いものでは無いのです。そんな安さなら、エレノの町でも沢山の人々が治療を受けたがりますよ?」

「そうなんですか?治癒魔法の練度を上げる為にエレノの町の人達の治療をしてみましょうか?ギルドにも迷惑をお掛けしたみたいですし、鉄級上位ランクからは奉仕活動の義務も有りますよね?」

《アリシア……さっき聞いてなかったのか?奉仕活動は終わってるぞ?》


「アリシア様……それはギルドとしては嬉しいのですが、既に暫定とはいえアリシア様の鉄級上位までの奉仕活動は終わっておりますが本当に宜しいのですか?」

「はい、それでも別に構いませんよ。冒険者ギルド主催、なるべく沢山の人に安価で治療する感じで如何でしょう?冒険者ギルドの利益や新しい仕事が増えるかもしれませんね」

《まったく……お人好しめ。だが、さすが俺の弟子だ》

(ありがとうございます師匠)

「畏まりました。日程の調整をしてから依頼を出させて頂きます。何人まで治療出来ますか?」

「簡単なヒール位でしたら三百回位ですね。ちょっと難しい魔法でしたら五十回から百回前後でしょうか?今はちょっと調子が今一ですので2、3日後でお願いします」

「畏まりました」


「それではアリシアさん、ポンチョの酒場に行きましょう!沢山食べて下さい!」

「ありがとうございます」


 アリシアはエレノ冒険者ギルドを燕団と共に離れ、少し早い晩ご飯を食べていった。次々と帰ってくる冒険者達も加わり、今日もポンチョの酒場は大盛況、アリシアは隠し芸と云う名の食糧確保と小遣い稼ぎを積極的に行い、吟遊詩人とコラボしては楽しい時間を過ごした。

そして隠し芸、声楽LVアップ、舞踊LVアップ、土魔法、その他の無駄スキルは異常に上がり続ける。


 手に入れた料理は唐揚げ10人前、厚切りステーキ10人前、タレ焼き鳥×13人前、塩焼き鳥×15人前、冷たいエール8杯、甘い果実酒五瓶と銅貨が沢山であった。


何故か、酔っ払い冒険達が隠し芸の合間や舞を踊った後、詩を唄い終わったアリシアに、毎回勧めて飲ませるのが冷たいエールなのが困りもので女冒険者は甘い果実酒を勧めるのがおかしい点である。





今後も頑張って更新していきますので、ここまで読んで面白い!続きが気になると思っていただけたら、小説のフォローや下の↓♥、レビュー★★★などお願いします!

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