閑話・運のない悪徳商人とてんやわんやの王城

 ネームドのエルダーゴブリンジェネラルが討伐される半年ほど前、立派な造りの馬車が十台程の隊列を組んで、多数の傭兵達を護衛にしてエレノの町からドワーフ領セレニム王国へと商売の為に移動していました。


「おい!この道は安全なんだろうな?」


「さて、どうでしょうか?雇い主は名前を名乗らず、わざわざ危ない道を通って我々に護衛を頼むってのは我々には少々きな臭くて堪りませんな」


「しかし、その分の報酬は上乗せして払っておるだろ?何か不満が有るのか?」


「不満と言いますか……この道を使ってセレニムに向かった隊商が幾つも行方不明となってるんですよ。かなり用心したほうが良いかと思いますぜ。エルダーゴブリンジェネラルのゴブリン王国が有るとか無いとか」


「うーん……エルダーゴブリンジェネラルの王国の噂は聞いているが、本当にそんなものが有るのか?」


「そりゃあ分かりませんが、エルダーゴブリンジェネラルなんざセレニム・ドワーフ王国の屈強なドワーフ達の敵じゃないとだけ言っときますわ。ドワーフは一騎当千の化け物揃いで武器や防具の装備が半端ないですから」


「うむ、今回はドワーフが欲しがる魔鉄や燃料、食料に酒と交換でドワーフ達の武器や防具を得るのが目的だからな」


「はあ、ドワーフ武器と防具を得る?闇商売かよ。やはりヤバい取引じゃないですか……やれやれ」


 この雇い主はエレノに拠点を持つ、とある商会の主であり、今回は闇商売として大量の食料と酒や金属などをドワーフ領セレニムで大量のドワーフ武器と交換する為、時知らずの特大マジックバックや普通のマジックバックなどに大量の荷物を詰め込んでセレニムへと向かっていました。


 闇商売というのはいわゆる脱税や国の認可が必要な武器や防具を売買して多額の利益を得る商売を指す言葉です。


 何時もならば商会主ではなく番頭を交易に向かわせるはずでしたが、時知らずの特大マジックバックを大量に載せ、初めてのセレニムへの交易とあっては自ら交渉するのが得策という事で多額の謝礼を渡してエレノでも大手の傭兵クランに護衛を頼んだのです。


「グオオォオオオーーーーーー!」

「ヒィッ、な、なんだ!?」


 しかし、商人も傭兵も運が無かったらしく、セレニム・ドワーフ王国まで半日という所まで来た時に大量のゴブリンの群れと出くわしてしまいます。


 それも、古より伝わるエルダーゴブリンジェネラルの王国で統率されたゴブリン達が襲いかかりますが、傭兵達が交戦するものの、相手が悪過ぎました。


 僅かな時間で十台有った馬車のほぼ全てがゴブリンの餌食となり、商人達はそれぞれ傭兵を囮にしつつ馬に乗ってエレノに逃走します。


 しかし、商人の不運はそれだけに留まらなかったのでした。


 混乱の中、大事な商売の種である魔法の指輪を馬車の中に置き忘れてしまったのです。


「く、アレが無いと大変な事になる。どうしたら良いんだ!」


 商人は暫し途方に暮れますが、店の倉庫にはまだまだ商品の在庫は有るので冒険者ギルドと傭兵ギルド、盗賊ギルドにそれぞれ探索依頼を出して魔法の指輪を探す事にしますが、魔法の指輪を積んだ馬車などは全て東の洞窟に送られてしまい、どのギルドからも探索料金のような安い料金での奪還は不可能と言われてしまいます。


 結果、頭の悪い商人は半年後にエルダーゴブリンジェネラルが討伐されるまでの間は質の悪い品を高く売る汚い商いで食い繋ぎ、商会は大いに評判を落とし、アリシアの取得物や遺品の売買を待つ事となりました。


王都では……


エルダーゴブリンジェネラル討伐戦四日後辺りから毎日のように情報が城に入って来ていました。


 そして、アーサー・リンバルト将軍が昼夜を問わずエレノへ向かう中、王城に吉報が報らされます。


「伝令!エレノの町に薬師様と聖女様が現れました!」


「何!?せ、聖女だと!その情報に間違いは無いのか?」


「非常に優秀な薬師様と聖女様がエレノの町に滞在、薬剤の補給と兵士の治療を行っている模様です!」


「なんと!優秀な薬師まで?エレノの状況は?」


「今のところ陥落はしておりません!」


「そうか、リンバルト将軍到着までエレノは保つかもしれんな」


翌日……


「伝令!エレノに優秀な魔法使い様が現れました!ゴブリンの群れは魔法使い様に蹴散らされて撤退、今のところエレノは無事です!リンバルト将軍はグラントにてオークの群れに大打撃を与えて、エレノに向かっております!」


「なんと!?薬師に聖女の次は魔法使いだと?辺境にそのような逸材がおるなど聞いた事もないぞ?天職の儀の報告にも挙がっておらんし何処の所属だ!」


「どうやら名もなき村の出身らしく、未だ未成年との事です!」


「うむ、そうか。その三人は是非とも我が国で迎えたい。エルダーゴブリンジェネラルの討伐が叶った暁にはリンバルト将軍に勧誘するように伝えてほしい」


「了解であります!」


数日後……


「伝令!リンバルト将軍率いる騎馬隊五千がエレノへと到着致しました!デュソル将軍もグラントに到着!ゴブリン群の約五千のうち三千匹が魔法使い様に討伐され、さらに追撃に向かった模様です!」


「はあ!?三千のゴブリン群が魔法使い一人によって壊滅したと云う事か?エルダーゴブリンジェネラルが敗走したと?」


「そのようです!」


「何という僥倖……薬師、聖女、魔法使いの三名の情報を速やかに集めよ!くれぐれも失礼のないようにするのだぞ?我が国に士官して頂くか貴族の養子に迎え入れようか……いやいや、むしろ爵位を与えよう。騎士爵…準男爵…男爵…子爵‥いっそゴブリン三千匹討伐の功績を以て伯爵の位を授けても良いな」


数日後……


「エレノより吉報です!ネームドのエルダーゴブリンジェネラルが討伐されました!リンバルト将軍よりゴブリンの首が届いております!しかしながら、聖女様は既にエレノの町を離れて辺境へ、薬師様と魔法使い様は冒険者ギルドに所属した模様です。リンバルト将軍からは今回の功績によるリュパン伯爵の褒賞を求めエレノへの代官の手配を送るように書状が来ております。魔法使い様の半年後までのエルダーゴブリンジェネラルの討伐報酬ならびに懸賞金の受け渡しの書状も有ります!」


「ふむ、これはチャンスでは有るまいか宰相?魔法使い殿にはエルダーゴブリンジェネラル討伐などの功績を以て伯爵に受勲しようと思うがどうか?」


「それは良い判断です。臣は薬師殿にも男爵位を授けてはと具申いたします」


「ふむ、我が国は常に薬剤不足…北方の戦でも隣国からの薬剤の提供に頼りきりであるな。この際、薬師殿にも貴族の養子に入ってもらうか、宰相の申す通りの男爵位でも授けようか…」


王城ではアリシアの意思とは関係なく処遇を色々と考えられているようでした。







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