第6話・ゴブリンの罠に嵌まる避難民
アリシアが赤狼団との戦いを開始した頃、名もなき村の住民達は頑丈なだけが取り柄の荷車に荷物や動けない人間を乗せて南西に有るエレノの町へと向かって必至に移動していました。
しかし、名もなき村の住民達はエレノの町が南西に馬車でならば四日から六日ほどの距離に有る事は知ってはいましたが……エレノへ至る道をほぼほぼ知らなかったのです。
エレノまでの道を知るのはガルフ村長や傭兵のジルなどで有り、地図らしき物もガルフ村長宅に有った筈なのですが、赤狼団の襲撃と村への放火の混乱のさ中で忘れられてしまいました。
そして名もなき村の住民達は分岐路で迷っています。
「おい!道はこっちで良いのか?」
「分からねぇ……どっちに行きゃあ良いんだ?」
「はあ、荷車が通れる道は有るのか?」
「分からん!誰か先導してくれ!」
「パスカル!ちょっと先を見て来てくれるか!」
「おう、オルソンは自警団と荷車を守っててくれ!」
「任された!」
「オルソンや、無理しないで頂戴ね」
「分かったぜ母さん!」
一部の人間は瀕死の重傷を負っており血液が足りておらず、アリシアの魔法と薬でなんとか一命を取り留めている状況でした。
当然、エレノへの歩みも遅れています。
「うううう………………」
「ガルフ爺ちゃん大丈夫?」
「ああ……ワシは大丈夫じゃ……アニスはどうじゃ?」
「はい、アリシアの魔法と薬のおかげでなんとか……」
「アニス院長……血が出てるよ!薬を持って来るね!」
「大丈夫、私は大丈夫だから自警団の人達に薬を持って行きなさい……うう……悪いけど荷車で休ませて貰うわね」
「アニス!アニスや!」
「先生……凄い熱だよ!」
村の中心人物が悉く重傷な中での移動は困難を極め、パスカルが荷車が通れる道を探しては前進する事を繰り返していました。
そして、名もなき村の住民達は道を外れ魔物の森の奥へと入って行ってしまいます。
更に運の悪い事に空には雲が掛かり月は見えず雨がぱらついて来ていました。
「オルソン……何かおかしい」
「ああ、獣の気配や鳥の鳴き声がしない」
「こりゃ、ヤバそうだな」
「おい!パスカル!オルソン!なんなんだ?はっきり言え!」
「静かにしてくれ。パスカル……周りを探ってくれるか?」
「分かった。みんな騒ぐなよ……少し静かにしててくれ」
「おい!なんなんだ!オルソン!パスカル!」
「馬鹿、騒ぐな!」
「ゴアアアアアアアーーーーーーー!」
「ギャギャ!」「ギャギャギャギャ!」
少し前から異変には気付いていたパスカルでしたが、降り続く雨の音で周りをゴブリンに囲まれている事に気付くのが遅れました。
自警団の男が発した大声に対して無数のゴブリンとゴブリンの統率者と見られる凄まじい威圧感を持つ逞しい重装備のゴブリンが応えます。
次の瞬間には荷車数台を囲むように無数のゴブリン達が配置され、一ヶ所だけ逃げれそうな場所が有るのですが意思を決定するべき村長達は身動きが出来ない状況です。
ゴブリンソルジャーの単体驚異度は鉄級下位(10匹から20匹の集団驚異度は銅級ランク以上での集団戦推奨)であり、見た目は身長百五十センチから百六十センチほどのやや小柄な人型の魔物に分類されていて、モンスターとしての位階は低いながらも鉄級(一般的なベテラン兵士の強さ)上位に位置しており知能も有るので厄介な魔物でした。
単体で行動する事はほとんど無く三体以上の集団で行動するので厄介極まりありません。
強力な個体に率いられたゴブリンの驚異度は飛躍的に上がり、その数が多ければ銀級(ベテラン騎士の強さ)を遥かに越える場合が有ります。
「ゴブリンだ!?不味い!囲まれてるぞ!」
「パスカル!あのデカいヤツを狙えるか?」
「無理だな。周りにいるゴブリンの数が多過ぎる」
「仕方ない。殿は俺が!みんな自警団と逃げろ!」
「オルソンや!母さんを一人にしないでおくれ!」
「母さん!ごめん!自警団は荷車を守れ!早く逃げろ!」
「オルソン!俺達も足止めするぞ!」
「ゴアアアアアアアーーーーーーー!」
「ギャギャ!」「ギャギャ!」「ギャギャ!」……
「く、来るなら来い!俺の斧の錆びにしてやるぞ!」
「盗賊から奪った斧と剣だが使えるのか?」
「やるしかないだろ!」
オルソンと数人の自警団が殿を務める間に一ヶ所だけ開いた退路へ名もなき村の住民達は逃げていきます。
オルソン達が必至にゴブリンの追撃を防ごうとするなか、ゴブリンの統率者は凄まじい威圧感を持ちつつも動きませんでした。
「な、なんだ?攻めて来ないぞ?」
「オルソン!俺達も逃げよう!」
「おかしい……」
「ゴアアアアアアアーーーーーーー!」
「な、何!?罠だと!?」
「ぎゃああああーーーーー!」
「きゃあああああーーーー!」
ゴブリンが動きを止めたのを見てオルソン達も逃走しようとした時、村人達が逃げた方向から叫び声が聞こえました。
ブォン!ボコッ「ガッ……」パタン……
ほんの一瞬、ゴブリンソルジャーから目を離した次の瞬間オルソン達はゴブリン達に頭を木の棒で強く打たれて意識を失います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます