第18話・意味の無い焼き討ち




 エレノア半島の東部には多額の賞金を掛けられた多数の厄介な盗賊やモンスター達が居ます。


 此度、名もない村を襲撃した赤狼団と云う盗賊団は凶悪極まりない集団では有りますが……○狼団と名乗る集団がやたらと多いのがエルト小国でした。


「おい! さっさと返事しろや!」

「皆殺しにされてぇのか!」

「チッ、ほんと五月蝿い奴等だな……」

「どうするジル?」


「オルソンと俺の二人は外、バスカルとアリシアは物見櫓の上から援護を頼む」

「分かりました!」「了解……」


 そういう事なので……凶賊の赤狼団とは別に、名もない小さな村の南西方向の複雑な森を進んで四日から六日、約百キロ程離れた場所に位置する交易中継点を担う宿場町のエレノ近郊の森の中に出没する事で知られている温厚なスローライフ集団の黒狼団とは名前こそ似ているものの全く別の組織であるらしい。


「はあ……赤と黒か……」 


(赤狼団、忌々しい奴等だ……ここに黒狼団のダナハ達が居てくれればな……)


「どうしたんですかジルさん?」

「いや、色々と考えてしまってな……今は赤狼団との闘いに集中せねばな」

「は、はあ……」


 ベテラン傭兵のジルはエレノの町から名もない村に里帰りする際に森の中で出会った巨根のダナハ率いる陽気な黒狼団の集団と友好的な関係を築き、密造酒を振る舞われながら名もない村まで安全に送って貰った経緯が有るので目の前の凶賊達には嫌悪感しか有りません。


 赤狼団のボスらしき男の声に応えるようにベテラン傭兵のジルと巨漢のオルソンは北門の前に進み出ました。


「おう!! どうだ? こっちは有り金と食料を全て出せば、おめぇらを見逃してやっても構わねぇんだが?」


 ベテラン傭兵のジルはモンスター素材を使用した頑丈な硬い革鎧を着込み、業物のロングソードと傾斜のついた盾を構えてフルフェイスの兜の面頬をおろします。


ガチャン……「凶賊の言葉なぞ聞かん!どうせ見逃す気も有るまい!」(ふん、凶賊め!)


 隣の巨漢のオルソンは兄貴分のジルの頼もしい姿を見つつ愛用する草臥れた木こりの大斧を肩に担ぎました。


コツコツ……「そうだな、お前らの言う事を聞く気は無いな」


(ここは通さん!)


「ふん!後悔する事になるぞ?良いのか?」


「さて、嫌だと言ったらどうするね?貴様が悪名高い赤狼団のゼノアとか言う盗賊頭か。四の五の言わずに掛かってこい!」


 ベテラン傭兵のジルはボスのゼノアと思われる人物に応えました。


「クックック……お前ら、ほんと後悔するぞ? 仕方ない。やれ!」(ちっ、めんどくせぇ奴等だぜ……)


 赤狼団の盗賊達のボスであるゼノアは心底面倒臭そうに盗賊達に指示を出し、盗賊達は火の着いた松明と油瓶を次々と名もない小さな村の北門に投げつけ始めました。


 「おうよ!」 ビュン! バリン!

 「そらよ!」 ビュン! バリン!

 「おらおら! 喰らいな!」 ビュン! バリン!


ボォオオオオオ―! ボォオオオオオーー!


 いきなり門に焼き討ちされるとは思っていなかった二人は赤狼団の行動に唖然とします。


 普通に考えれば名もない村から色々な物資や食料などを奪ってから焼き払うならば意味はありますが、物を奪う前に焼き討ちしてしまえば得る物は無いのです。


 もはや、完全に頭が狂っているとしか思えない暴挙、しかしそれが赤狼団が凶賊と呼ばれる所以でありました。


「てめぇら!村を焼き払って何がしたいんだ!」

「やめろ!やめんか!」


「ひゃはははは!おー、もっと燃やしてやれや!」

「うっす!」 ビュン! バリン!

「ほれほれ!」 ビュン! バリン!

「こんがり焼けな!」ビュン!バリン!


ボォオオオオオー! ボォオオオオオー!

ボォオオオオオオオオオオオオオオーーーーー!!


「やめろーーーー!!」

「バカヤローーーー!!」

「うそ、バスカルさん、門が」

「アリシア、あれが盗賊だ。良く見ておけ」


 ジルとオルソンの叫びも虚しく盗賊達は門に松明や油瓶を投げつけ続けました。


ボォオオオオオオオオオオオオオオーーーーー!!


「くそ、いきなり焼き討ちかよ!」

「奴等は馬鹿か!」


ボッ! ボボボボボ……ジュッ! 「あちっ!?」

ジュッ! 「くぅ……不味いなこれは……」


 村の門は炎に包まれ、退路を失った木こりのオルソンとベテラン傭兵のジルは軽い火傷を負います。


「ひゃはははは!囲め!」


 その瞬間を逃さず盗賊達が二人に襲い掛かり、二人を囲むように半円形に盗賊達は近付いてきました。


 今回名もない村を襲撃した盗賊達は三十代半ば頃の歳の男が中心の軽い賞金首達であり、懸賞金はそれぞれ銀貨ニ十枚から五十枚ほどのビミョーな相手であり、全体で百人ほどの赤狼団の中でも少しは名が通った者達で、そこそこの腕を持つ残虐非道な輩です。


「それ、奴等を囲め!」


「「「へい!」」」


 燃え盛る北門を背にするオルソンとジルに武装した赤狼団の盗賊達がショートソードやロングソードを片手にジリジリとにじり寄りました。


カチャ、カチャ……「クックック……ほれほれ、切り刻まれてぇのか?」

ブォン! ブォン! 「泣きをいれるなら今しかねぇぞ?」

「ひゃはははは!死ねぇ!」


「バスカル!アリシア!射て!」

「「おう!!」」


 盗賊達が連携して二人に攻撃を仕掛けようとするタイミングで2本の矢が前列の盗賊の足を射ぬきます。


ビュン! ブスッ 「ぐあ!? 足が! 足をやられた!」

ビュン! 「ぐあああああ!?」

「クソ!上から狙われてるぞ!こっちの矢は届かねぇ!」


 ジルとオルソンに攻撃しようとする盗賊に見張り台の上からアリシアとバスカルが連続して矢を放ちました。


「よし、いくぞオルソン!」

ビュンッ、ドシャ 「ぐぇ!?」

「おうよ! そりゃ!!」

ブォン! ドスン! ブシャッ 「ぐあっ!?」


「チッ、テメェら、なにしてやがる!」


 二人はアリシアとバスカルの援護射撃を受けつつ速やかに盗賊の息の根を止めていきます。


ビュンッ、ブスッ「ぎゃあああーーー!」

ゴロンゴロン「無防備に転がるからこうなる!」 ズバン!「ぐあっ!」


 戦闘中に余所見をしていた間抜けな盗賊の一人をジルが一瞬でとどめを刺すと、隣では少し躊躇いながらも巨漢の心優しいオルソンが草臥れた斧を奮って盗賊の一人の身体をを叩き潰しました。


 辺りには強烈な血の臭いと血溜まりが出来ていきます。


「おら!人様の村を襲いに来たお前等が悪いんだぞ!」

ブォン! ドガッ! 「いだっ!あじが……あじがいでぇー!」

「次はお前だ!」 ズバン! 「ぎゃっ!」 


 前衛のジルとオルソンが盗賊達と戦い、後方の見張り台からのアリシアとバスカルの援護で次々と盗賊達は血祭りに上げられていきました。


「おい! 誰か屋根の上から弓兵が狙ってるぞ! 気をつけろ!」

「へい!」

「避けろ!」

ビュンッ、トス! 「ぐぇ!?」

ビュンビュンッ、トス! トス! 「ギャッ!?」

「バスカルさん!矢が!もう矢がありません!」

「く……俺も矢が無い……」


 盗賊の頭が注意を促している間もアリシアとパスカルの二人は盗賊に手傷を負わせていきますが盗賊達を半数ほど減らしたところで矢が尽きてしまいました。





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