困ったときの神頼み
山村に籠った翌日に村人たちは神社に参拝に訪れていた。
元の住人たちが合戦が早く治まる様にと、山村にあった社で祈祷しようと提案したのだ。しかし、いつも祈祷が終わると村の寄合所で飲んでしまうので、神前に納める
仕方なく、代わりに作物をお供えした。
その帰路に着こうという時に「おい。ありゃなんだ?」藤右衛門は叫んだ。
どす黒い柱が雲壌まで届こうかという高さで、恐ろしい威圧感を放っている。その日、城下町の方から黒煙が昇っているのが見えたのだ。もしかすると野鷹の城が燃えているのではないかと村人たちは噂した。
「戦ほど不吉な物はない…」
藤右衛門は一人で呟いた。
○
祈祷も終わって寄合所での一幕である。
「あの分では城も燃えている様じゃな、三城の落ち武者がここまでやって来たら、皆も遠慮なく斬るのだぞ」
庄屋はそう言って、村人たちを鼓舞した。
「剥ぎ取った具足は銭になるだろうな?」
三助が庄屋に問いかける。
「うむ。当然じゃ」
「なら首はどうだ?」
「うぅむ…、百姓が持って参っても、大した褒美にはならんじゃろうな。それに武家には百姓のそうした行為を好かん者もおるしな。新しい領主がどういった男かもわからんのでやめておけ」
先刻から、このように物騒な話をしている。
「あまり神前の後では喜ばしくない話だな」
藤右衛門は二人を叱り付けるが、一向に気に留めない様子だ。
「そのような気遣いはいらないさ、侍は合戦の武運を神に祈るではないか。我々と
て村を自衛しなければならないのだから同じことだ」
茶を飲みながら三助は言った。
「そうだぞ、賢くなったら負けなのだ」
手を叩いて庄屋も同意している。
戦乱の世とは非情な道なのだと思った。
「でもだな。我々は三城に何の義理もないが庄屋様は良いのか?…それこそ庄屋として五代も続いて仕えて来たのではないか?」
藤右衛門は疑問に思っていたことを聞いてみた。
だが、何の感慨も沸いては来ずと言った表情で「主従など銭にならなければ値打ちはないぞ。それで犠牲になる物を考えても見ろ。生きてこその物種だ」と、声色も荒々しく言ったのである。
その表情と言葉には、長い歳月をかけた真実味があった。
「それに奴はわしにも
そう言って、庄屋は顔を伏せたのだった。
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