最愛の眠り姫
安藤リョウヘイ
第1話
君と出会って50年。付き合い始めて48年。結婚してから45年。僕の思い出の中で、君はいつも眠っている。
初めてのデート、覚えているかい?
寂れた映画館で観たB級恋愛ドラマ。ラストのシーンで、どんな顔してるかなって目線をやると、大口を開いて眠っていたね。
初デートでそんなことが出来るのかって驚いたけど、それ以上に心を許してもらってるんだと思った。あの時、すごく嬉しかったんだ。
初めて一緒に布団に入った日。
ドキドキして眠れない僕を横目に、君はすぐに眠りについた。何時間も眠れず、君の顔を眺めてたんだ。
綺麗な顔で寝息を立てる君は、まるで天使みたいだった。一生この子を守っていこう。そう決めたんだ。
結婚式の夜。
千鳥足で家に帰ると、そんな僕よりも先に君がベッドへ向かった。
そこにはいつもと変わらない寝顔がある。これから、2人で歩んでいくんだな。そんなことを考えながら君の頭を撫でた。
2人の宝物が生まれた日。
一晩中頑張った君は、事切れるように眠った。その次の日、並んで眠る君たちの姿を見た僕は、思わず泣いてしまったんだ。これは君には言ってなかったかな?守らなければならない命が増えた。それがとても誇らしかった。
僕らの宝物は、また新しい宝物を届けてくれた。あの時、君が頑張ってくれたおかげだよ。ありがとう。
宝物が家を出た日。
少し部屋も広く感じる。家事の負担も減って、君は今まで以上に早くベッドに向かう。
君の寝顔には、出会った頃には無かったシワが沢山ある。お互い、歳をとったな。
それでも、愛おしいという気持ちに変わりは無い。綺麗な寝顔だよ。
僕の思い出の中で、君はいつも眠っている。そして今も。静かな病室で眠る君の手を、僕は黙って握っている。僕は心の中で君に伝えた。
今日だけは。今だけは目を覚ましてくれないか?
すると、握った手が少し握り返したような気がした。その事が、君が遠くへ行ってしまう事を教えてくれた。
酷く滲んだ視界に映る君に、僕は笑顔で言った。
「いつも、いつだって君は綺麗だ。」
最愛の眠り姫。君と歩んだ人生は、とても幸せだった。本当にありがとう。
一つお願いがあるんだ。もし、また会うことがあれば、またその寝顔を見せてくれないか。
この人生が、夢じゃ無かったんだと確かめたいんだ。
その時を楽しみに、僕も精一杯生きてみるよ。
最愛の眠り姫 安藤リョウヘイ @ryohei_ando070
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