卒業式に花束を

バナナキング

卒業式に花束を


 舞い散る桜の花びら達、冷たい風が過ぎて暖かい風が吹き始めた春。


 私には、好きだった人が居る。それは、幼馴染みでもあるたっちゃんだ。


幼稚園の頃からいつも仲良く遊んでもいたし、お出掛けをするのも一緒だった。けれど‥‥



___二ヶ月前(下校中)



 カラスが鳴き始めた夕暮れ、住宅街の街灯の明かりが私達を照らす。私とたっちゃんは、いつもの様に話しながら帰っていた。


「ねぇ、たっちゃん。 さっきから元気がないけどどうしたの?」


私は、何食わぬ顔で問いかけた。


「う‥ん、 実は由子にはもっと前から話すべきだったんだけど、 その‥‥」


 たっちゃんはしばらく黙り込んだ。そして、真剣な顔で私の方を見て話し始めた。


「実は由子、 俺今度引っ越すんだ」


 その言葉に私は動揺した。何かの冗談だと考えたしかし、たっちゃんの表情から今の発言は冗談ではないと分かった。


「なんで、引っ越すの‥‥」


たっちゃんは少し悲しげな顔をして言う。


「実は俺、東京の方で内定もらったんだ。 それで今度俺だけ東京の方に引っ越すことに‥‥」


私は悲しい感情を殺して笑顔で言った。


「良かったじゃない! 内定おめでとう」


「えっ?」


私に発言にたっちゃんは困惑していた。


「もっと驚いたり、 そのー、 困惑とかして止めたりしないの!?」


「何言ってるのたっちゃんは、おめでたい事じゃない! それに、私たち何年一緒に居ると思ってるの!」


「い、いや、 だからこそ、もっとほらこんな‥‥」


「と・に・か・く、 おめでとう! 素直に喜びなさいよ! 私の事なんかよりも! あと、ちゃんと向こうに行っても連絡してよね」


 そう言うと、たっちゃんは笑顔になりいつもの性格に戻った。


「あぁ、 もちろん! ちゃんと夏や年末には帰るさ。 俺が居なくて寂しくないか?」


「当然でしょう! 私、寂しさには人一倍強い方だから! そんなことよりたっちゃんは私が居なくて寂しくないの? 幼稚園から私が居ないと落ち着かったけど」


 そんなこんなで悲しさを和らげようとたっちゃんといつものように話す。


 私は家に着くと玄関で、一気に悲しさが訪れ、大粒の雫が地面に滴れる。


「たっちゃん居なくなるなんて悲しいに決まってるじゃない、 バカ!!」


 私は何度も落ち着かせようとするが、たっちゃんと離れてしまう現実に耐えれず、しばらく泣き崩れてしまった。



___卒業式当日



 体育館では、涙を流し自分のこどもの姿をスマホやカメラに納めようとする親たち。


凛々しい姿で卒業証書を校長先生から受けとる生徒達。


そんな、生徒達の姿を見て少し滲み出た涙を浮かべる先生達。


 それぞれの思いがあった卒業式。卒業証書受賞を終え、みんな教室で話し合っていた。

笑顔で話し合う生徒も居れば、涙ぐんで話す生徒も居た。


 私はその中たっちゃんに話しかける。


「ねぇ、たっちゃん。 今日で最後だから一緒に帰らない? 話したい事があるんだ‥‥」


「良いけどちょっと帰り際に用があるからくつ箱で待っててくれ」


「分かった」


  私はたっちゃんと話した後、仲の良かった友達と話す。



___放課後(くつ箱)



 私は、くつ箱の柱に掛けてある時計を見る。


「たっちゃん遅いなぁー」


少し苛立ち気味だった。


 廊下が段々と、オレンジ色変わって行く。私は、ついに怒ってたっちゃんを探すことにした。


「とりあえず教室に行ってみるか、本当にたっちゃん何してるんやろう!」


本当は、下校時にたっちゃんに私の思いを伝えたかったが、しかし怒りがそれを書き消そうとした。


 私は教室にたどり着いたが、中で話し声がする。しかし、私はたっちゃんが長く待たせた事に腹が立っていたので、中のことを気にせず行きよい良く扉を開けた。


「たっちゃ‥‥!」


「好きでした付き合ってください!」


 私の怒りは一瞬で冷め、それよりもたっちゃんが女性教師の渡辺先生に花束をあげて告白していた衝撃が走った。


「えっ? 由子!?」


渡辺先生とたっちゃんが私を見る。

私は、とっさにその場から走って逃げてしまった。


 私は、くつ箱で腰を落とし泣いた。私の泣き声が廊下に響き渡る。


涙を堪えようとするが、ダメだった。


「涙が止まらない、どうして、 どうしてなの‥‥」


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