触手もつらいよ

高久高久

第1話

――俺は触手。個体名は無い。『触手族』と人間共の間ではモンスターの一種として呼ばれている存在だ。

 その名前の通り、俺達の身体は幾つもの触手の集合体だ。無数とも言える触手は俺の身体であり武器でもあり俺その物。

 人間共は俺達の事を恐ろしいモンスターとして扱っているが、一方で『エロ触手』等と不名誉な呼び方もされている。それは俺達の戦い方のせいだろう。

 俺達の戦い方はこの触手を使って相手を拘束し弄ぶ事だ。触手を高質化させて貫いたり、鞭のようにして殴る事も出来るがそちらはメインではなく、あくまでも相手を無力化させる一手段でしかない。

 相手を拘束し、触手から分泌される粘液を相手に塗りたくりつつ甚振る。これは攻撃手段でもあり、俺達の食事でもある。

 相手を甚振る事により、生命力を奪っている――所謂ドレインだ。この生命力が、俺達にとっての食料なのだ。

 やろうと思えば人間如き瞬殺する事も、一瞬で生命力を奪い尽くす事も造作もない事。だがそれでは面白くない。食事は作業ではない。楽しみ、愉しむ為の物だ。

 じわじわと抵抗する相手を甚振り、弄び、やがて全てを諦めた生命力は極上の物となる。

 特に人間のメスという個体の生命力の味は格別な事この上なく、長く楽しみたい為にじっくりねっとりねっちょりと甚振るのであるが、その光景が人間たちにとってエロく見えるらしい。

 全く、俺達はただ食事をしているだけだ。人間共だって食事の為に殺生したりとしているのに、エロ呼ばわりされるとは全く以て解せぬ。

 裸にひん剥いたり、穴と言う穴に触手を突っ込んだり、ついうっかり種付けしてしまったりとしているがこれも楽しい食事の為なのだ。決して下心はない。そう、決して可愛い女の子をアへらせたり、ダブルピースさせたり、挙句に「らめぇ」とか言わすのが趣味とかでは決してないのだ。いいね?


――まぁ俺達の事情はどうでもいい。重要ではない。


 さて、そんな触手である俺達の住処はダンジョンと称される場所だ。その昔、俺達モンスターは強者として蔓延っていた時代もあった。だが人間達との争う事に疲れ、ダンジョンへとひっそりと暮らす事を選んだ。共生ではない。積極的に人間たちを攻めるような事はしないが、やられたらやり返す程度の不干渉を選んだのだ。

 このダンジョンというのは俺達のようなモンスターの住処になっているのだが、モンスターの身体は人間達にとって利用価値が高い物らしい。その為モンスターを討伐し、その死体を素材とする冒険者と呼ばれる者達が存在する。

 だが俺達モンスターにに言わせれば住処を荒らす侵入者でしかない。こっちの命を狙って来ているのだから、全力で抵抗する。当然だ。黙って殺されるのを良しとする生き物がいるとでも?

 まぁそんなモンスターにとって危険な存在である冒険者であるが、実を言うと俺達触手にとってはそんな脅威に感じる物ではない。むしろ餌が来るような物だ。

 冒険者は武器を持って戦う戦士タイプ、魔法を使う魔法使いタイプといるが、俺達の身体は硬くもなるし柔らかくもなるので打撃斬撃といった物は通用しないし、魔法に関しても俺達の種族は魔力が強いので効果が薄い。喰らい続ければ無事では済まないだろうが、その前に人間の魔力が尽きるのが先だ。

 というわけで冒険者程度屁でもないのだが、俺にはとある悩みがあった――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る