第32話

 僕たちの通う高校の文化祭は、基本土日が被らない限りは九月二十九日・三十日におこなわれる。そして十月一日に運動会が行われ、後夜祭にて文化祭は終了する。

 文化祭では各学年、クラス、部活動らが出し物を用意するが、メジャーなものからマイナーなものまで様々であった。

 規模はなかなかに広く、二日間ではとても回り切れない。

 ちなみに僕は去年のクラスでメイド喫茶カフェを行った。女装をさせられて、周りに疲れて、音楽室に逃げた時に天川くんに出会ったのだ。

 今年は何を行うのか。

 楽しみでもあり不安でもあり、そんな感情が僕の頭を渦巻いた。


 ホームルームが始まる。

 実行委員会に立候補した、クラス委員のふたりが今年のテーマ候補を黒板に書き連ねていく。定番はやはりメイド喫茶やお化け屋敷だ。もしもまたメイド喫茶になったなら、きっと去年みたく男子がメイド、女子が執事の恰好をするのかな。なんて、思い出すだけでも気が重くなった。


「――演劇はどうだ?」


 鶴の一声、とも言うべきか。

 発言者はピアノ王子こと天川くんだった。僕は思わず後ろを振り向き、彼を見た。彼は、とても爽やかな表情をしていた。

「演劇?」女子委員長が聞き返す。

「そ。去年俺たちのクラスでやった時、結構評判良かったからさ。今のクラスにも演劇部何人かいたろ? 童話のリメイクでもして30分くらいの劇にすればさ、楽しいんじゃないかなって。どうだ?」

 天川くんの言葉に、周りがざわつく。僕の心は別の意味でざわついた。

 賛同の声が上がり、僕たちのクラスの出し物は『演劇』となった。

 演目は後日決めることとなり、ホームルームは終了した。天川くんはとても楽しそうにしていたので、まあ、僕もその決定を受け入れることにした。

 そうだ、キャスト以外にだって役割はあるじゃないか。

 僕はスタッフを希望しよう。照明や音響、小道具でもいい。僕みたいな地味なやつは、せいぜい裏方仕事が似合う。天川くんのように舞台に映えるひとはキャストをやればいい。きっと彼ならメインキャストに選ばれるに違いないのだから。

 天川くんがキャストであるなら、僕は彼を裏方スタッフとして精一杯支えていきたい。


 そう、この時は思っていた――。


 僕の計画は、次のホームルームで容易く崩れ去った。

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