⑤年間の出逢いの中で

@sho-t_

第1話 春

「野菜の苦味が美味しいんだよね。」


そう、俺は普段から肉より野菜の瑞々しさが好きで、よく一人暮らしを始めてから肉料理より野菜料理を好んでよく作る。


彼女、いや、恋人だろうか。恋人のYは遠距離恋愛に始まった訳だが、よく野菜料理を作ってもらう。

彼女のトマト料理とパン料理は絶妙に合う。最初の出逢いは今から数年前、丁度俺が2017年に5年日記を書き始めた年末に偶然出逢った。初めて出逢った筈なのに、そんな感じはしない。デジャヴに似たような感覚の出逢い。


Yの手料理にはちょっとした隠し味があるようで、たまに一人でカフェでゆっくり時間が流れている時に感じる、小窓の外の小鳥の囀りのように注意深く観ていないと分からないような、ちょっとした変化。


「ねえ、今日の私の野菜料理、どこか違うか分かる?」とY。

「うーん、皿が違う。」とじっくりと料理を観て答えた。

「違うよ、皿じゃなくて、塩味を変えたんだよ。私の友達がスーパーで働いてるんだけど、海外の塩を勧められたからそれを使ってみた。」

「へえ、そんな塩味変えただけで料理の味変わるん?」

「…じゃあ、あーんして」とフォークを俺の口元へと運ぶ。

「美味しい!」


部屋の外は晴れていて、少し木の葉が風に揺れ、俺の心も少し揺れた。


赤い顔の右大臣が一番好き。

ふと、Yはパンを食べながらそんな事を言った。

「そう言えばさ、昔、ウチの爺ちゃんが雛人形を飾るときに、右大臣の顔半分が日に焼けたのを見て、まるで照れている様だな、と言ってたけど、この家ってまだ雛人形飾らないの?」

「それは、俺が幼稚園の頃に全部処分しちゃったんだよね。」

「なんでそんな事をしたの?」

「うーん、何でだろう、多分、赤い顔がまるで自分が教室で当てられた時みたいに、照れた表情をしている自分と重ね合わせてしまうのが嫌で、親に頼んで処分してもらったんだ」

「そうだったの……可愛いのに、照れた表情…」

「うるさいな、それより、春といえば桜だろう?、今年の花見、近所の川べりでやる事になりそうなんだけど、Yは来るの?」

「うーん、私はいいかな、GWはこっちに居るけど、その前に地元に帰るつもりだし。」

牛乳を手に取り、少々間を置いてそう答える。

二人が目を合わせたその時、春一番のように思える勢いある風が窓越しに入ってきて、Yの髪を揺らした。

その艶やかな姿を見て、まだ見ていたいが、もう片付けなければ。

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