☆第六十五夜(夢をかなえる日)

「そういえばあんたって、将来の夢とかあるの?」

「なに、藪から棒に」

「もうすぐ進路相談だから、なにか目標見つけとかないといけないのよ。だから身近なところからインタビュー」

「俺も夢らしい夢はないけど……。食うに困らない職に就ければなんでもするし」

「まあ、その時になったら、パパがあんたを捕まえちゃうんでしょうけど。今からごまをすっとけば、子会社くらいは任せてくれるんじゃないの?」

「やだよ。社長なんて柄じゃないし。ていうかお嬢の方こそ、将来会社を継ぐなりするんじゃねえの?」

「わたしの方がよっぽど経営者に向いてないわよ。うちは完全なる同族経営でもないし。パパは実力主義だから、いくらわたしに甘くっても会社を譲る気はないでしょ」

「大旦那様はそう思ってなさそうだけど」

「おじい様はね、わたしの結婚相手に継がせたいのよ。もちろんそうした方が会社的には一番いいんでしょうけど」

「……お嬢はそれで納得してんの?」

「まさか。わたしは恋愛結婚に憧れてるんだから。パパとママみたいに、子どもができても年月が経っても、ずっと仲良しでラブラブでいるの」

「世間知らずなお嬢様らしいわ」

「なんか言った?」

「いいえ、なんでも」

「ていうか、わたしの結婚観はどうでもいいのよ。問題はわたしの将来。うちの系列に入るのは避けられない事態として、わたしがやりたいことってなにかしら。ねえ、どう思う?」

「知るか。自分で考えろ」

「ひどい。ちょっとくらい一緒に考えてよ」

「自分のことなんだから当たり前だろ。いつまでも聞けば答えてくれると思うなよ。生きていくうえでの正解なんて、本人にしかわかんないんだからな。他人に任せて正しい道にいけると思うなよ」

「……たまにはいいこと言うじゃない」

「伊達にお嬢より長く生きてないから」

「少し褒めるとこれよね。でもいいわ。わたしももう少し一人で考えてみよっと」

「おー、頑張れ」

「あんたもそのうち見つかるといいわね。自分だけの夢」


「いつの間にか叶ってしまいましたね」

「え、なに急に」

「なんでもございませんよ、お嬢様」

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