第十七夜(ポッキーの日)
「ねえねえ」
「はい、お呼びでしょうか、お嬢様」
「ポッキーゲームをやりたいんだけど」
「ゲホッ!」
「ちょっ、汚い!」
「こほん……失礼いたしました。ですがお嬢様、お嬢様はご存知なんでしょうか? ポッキーゲームの、その、趣旨というものを」
「やあね、知ってるわよ」
「では一体どなたとゲームをなさるおつもりで……」
「そんなのあんたしかいないじゃない。あんた以外誰とやるって言うのよ」
「お嬢様、それはつまり……」
「さあ、はじめるわよ。利きポッキーゲーム!」
「…………」
「どうかした?」
「わたくしもまだまだお嬢様の執事として未熟だったと反省しました」
「ヘンなの」
「どこで覚えたんですか、そんなゲーム」
「覚えたっていうか、ポッキーを使うゲームって言ったらそれくらいでしょ。それとも違う遊び方があるの?」
「もちろんお嬢様のおっしゃるものが正しいポッキーゲームです。さすがお嬢様、誰に教わるともなくその発想力と理解力、素晴らしい才能でございます」
「なんかそこまで褒められるとかえって気味が悪いんだけど」
「では、わたくしは定番からご当地限定品まで全種類のポッキーを取り揃えればよろしいでしょうか」
「そうね。あと、美味しい紅茶」
「もちろんご用意いたします」
「家で練習して、次の合コンでこのゲームで注目を浴びてみせるわよ」
「……は?」
「前に合コンでポッキーゲームをやるのが流行ってるってネットに載ってたから」
「いや、それ何年前の話ですか。じゃなくて、人前でほかの誰かとするおつもりですか?」
「うん」
「……はあ」
「なによ、ため息なんかついちゃって」
「いえ、もはや突っ込む気力も消え失せました」
「腹立つわね」
「しかしお嬢様、その合コンでおこなわれるポッキーゲームが、お嬢様がご存知の伝統あるゲームと同じとはかぎりません」
「え、そうなの?」
「よろしければわたくしがお教えいたしましょう。さ、お嬢様。こちらのポッキーをお使いください」
「待って、今そのポッキーどっから出した?」
「執事でございますので」
「意味わかんない……。まあいいけど。で、わたしがチョコの部分を食べればいいの?」
「いえ、まずは軽くくわえてください」
「くわえるだけ? こう?」
「はい。そしてクッキー部分をわたくしが食べようとしますので──」
「ちょっ」
「お嬢様は素早く避けるのです!」
「はい?」
「このゲームはいかにして相手に自分のポッキーを奪われないかを競うものでございます。相手がポッキーに触れたらゲームオーバーでございますので、どうぞご注意くださいませ」
「そんなルールだったのね……。わかったわ。こう見えて動体視力には自信ある方よ。ぶっちぎりで勝ち抜いてやるわ!」
「その意気でございます、お嬢様」
「そうとわかれば特訓ね。もう一本ポッキーをちょうだい」
「かしこまりました。……うちのお嬢様が単純なバカで本当にようございましたよ」
「え、なに?」
「もちろんなんでもございません」
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