こじらせ執事の悩みの種

うさぎのしっぽ

第一夜

「はぁ……」

「おやお嬢様、ため息とは珍しい。歳頃の女性のため息は、つくだけで幸せが逃げますよ」

「うっさいバーカ」

「いつもの勢いがございませんね。なにかお悩みごとでしたら、お嬢様の忠実なる執事のわたくしが、謹んでお聞きしますが」

「……大学の友だちにみんな彼氏ができちゃったから、わたしも彼氏がほしいなって」

「失礼、わたくしお嬢様のブラウスにアイロンをかけようとしていたところでした」

「ちょっと! 話聞いてくれるんじゃなかったの!?」

「ご心配なさらずとも、お嬢様でしたらすぐに魅力的な男性が一人や二人言い寄ってきますよ」

「なんでそんな嫌そうな顔で言うのよ。いいから聞きなさいよ、あなたの大切なお嬢様の一大事でしょ」

「……かしこまりました」

「そもそもこのわたしに告白する男子がいないことがおかしいのよ! ほら、わたしってそこそこ美人でしょう? スタイルだって悪くないし、ファッションセンスだっていいわ。メイクは完璧だし、女子力はなかなか高い方じゃない?」

「はあ、否定は致しません。ご自分でおっしゃってしまうと色々台なしですが」

「いいの、事実なんだから。でも誰もわたしに声をかけないなんて、やっぱりうちの大学の男には見る目がないのね。もしくはわたしがあんまりにも非の打ち所がなさすぎて、高嶺の花になってしまったか」

「…………」

「なんなのよ、さっきからその憐れむような目は」

「いえ、お嬢様はたいへん幸せそうで、わたくしは嬉しゅうございます」

「なんか腹立つ」

「しかしながらお嬢様、女子力とはなにも見かけだけで判断するものではございません。むしろ内面が真に女性らしい方こそが、女子力が高いと称するにふさわしいのではないでしょうか」

「わたしの中身は女の子らしくないって聞こえるけど?」

「いえいえ、まさか。いくらお嬢様が料理も掃除も裁縫もできない、なにをするにもわたくしの手を借りないとこなせない箱入りお嬢様であるからといって、女性らしさがないとは」

「悪かったわね!」

「ほら、お嬢様。そうやってすぐ怒り出すのは女子力が高いとは言えませんよ」

「ぐ……っ」

「もしお嬢様が真の女子力を身につけたいのであれば、及ばずながらわたくしが力添え致しますが」

「違ーう! わたしは女子力じゃなくて、彼氏がほしいの! ありのままのわたしを受け入れてくれる、素敵な彼氏が!」

「ありのまま、ですか。……心当たりはございますがね」

「えっ、誰!?」

「わたくしからは申せませんね。ですがお嬢様、近くにあると気づけないことも」

「あ、待って、サークルの先輩からラインきた」

「……そういうところですよ、お嬢様」

「うそ、マジで!?」

「なにかございましたか?」

「先輩からお誘いがきた! 今度の日曜日、一緒にスイーツバイキングいかないって。実は結構いいなって思ってたの」

「……左様で……」

「こうしちゃいらんない。急いで服を決めなきゃ。じゃ、アイロンよろしく!」

「かしこまりました。おやお嬢様、スマホをお忘れで──聞いちゃいねえ。どれどれ、っと。……早坂、ね。至急調べさせるか」

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