第46話 守りたいもの
どれだけ泣いていただろうか。篝火の木がはじける音がして、ふと我に返る。
思い返すとかなり恥ずかしい。サクラの顔が直視できない。
「あーありがとう。もう大丈夫」
サクラは俺の態度から色々と察したのだろう。少し笑いながらこちらに言葉を返した。
「そうですか。夜も遅いですし、私もそろそろ戻ります」
「心配かけて本当に悪かった。でも、ありがとう」
フェアリスの叱咤とサクラの優しさ、どちらも俺には嬉しかった。だから、せめてそれを伝えようとお礼を言う。
「気にしないでください。それでは、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
天幕に入り、横になると泣いて疲れていたのかあっという間に眠気が襲ってくる。
神様とやらは案外人間らしいんだなと思いながら。
◆
翌朝、目が覚めると昼近い時間になっていた。
少し寝過ごしてしまったと思い外に出る。兵達に挨拶をされながらとりあえず食料の配給場所に向かう。
よく見ると二日酔いの兵もいるのか動きが鈍い者も多かった。
苦笑しながら配給場所に近づくと、こちらに気づいた当番の兵が慌てた様子で駆けてくる。
「勇者様。言ってくだされば食事をすぐにお持ちいたしますので」
確かに、ここへ来るのは初めてだった。だが、昼過ぎに起きてきて持ってこいは少しいいづづらかったこともあり取りに来た。
「いやいや、いいよ。それにここまで来ちゃったし、一人分貰ってもいいか?」
「はい!直ちに」
そんなに急がなくてもいいんだけど、と思いながら待っているとすぐに料理が運ばれてきた。
それを受け取り、お礼を言うと邪魔しないようにすぐに離れる。
軍用食らしく、味気ないが、歩きながら食べれるタイプなので楽だし嫌いじゃない。
何をするかを考えつつ歩いていると、レイアの様子も気になるので救護用に設置されているテントに寄っていくことにした。
当番の兵にレイアの場所を聞くと、どうやら専用スペースが用意されているようだったのでそちらに向かう。
外から小さく声をかけると彼女は既に意識が戻っているようで中から入室を許可する声がした。
「レイア、大丈夫か?」
彼女は傷は既に癒えているようだが、ベッドに仰向けに寝転んでいた。どうやら体が動かせないらしい。クラウダと戦った後の俺もそういえばそんな感じだったなとその時の光景を思い出す。
「ああ。怪我は既に治っている。ただ、体が思うように動かん。今日一日はまだ寝たきりのようだ」
無表情ながらも少し退屈そうな顔でレイアがそう言う。彼女との付き合いもそれなりに長くなってきた。
本当に僅かな顔の変化しかないが、だいたい思っていることはわかる。
「何かできることはあるか?」
「特にないな。いや、退屈さはあるので少しだけ話に付きあってくれるか」
「わかった」
レイアは饒舌な方では無いので、断続的にではあるが、会話が始まる。話題は主に四天王との戦いの件だった。
「……というわけだ。少し違えば負けていたのは私だっただろう」
攻撃が当たらないというのは脅威だな。恐らく、レイアも魔眼が無ければ負けていただろう。
仲間を失っていたかもしれないと思うと正直ぞっとする。
「本当に誰も欠けることなく勝ててよかったよ。魔王に吹き飛ばされたとはいえ完全に離脱して悪かった」
「いや、貴方の方も激闘だったはずだ。あの四天王たちをまとめる魔王。それが弱いはずがないからな」
「確かに強かったよ。正直言うと俺の方も負ける寸前だったんだ」
「そうか。勇者殿も無事でよかった。
……それと、その魔力量はどういうことなのか教えては貰えるのか?」
やはり気になるよな。特に大きな反応は無かったが、魔眼があってわからないはずがないのだから。
「また、みんな揃った時に言いたいんだが、それでもいいか?」
その言葉にレイアはゆっくりと頷く。
「大丈夫だ。最悪話してくれなくも、私が貴方を信頼していることには変わりない」
まっすぐな言葉に少しドキッとする。彼女は唐突にこういったことを恥ずかしげも無く言ってくるから心臓に悪い。
「あーありがとう。なんか照れるな」
「本当のことだ。私は何があっても貴方を信頼しているし、貴方が求めるならば守りもする」
彼女は最初の頃に比べて自分の意志というものを強く見せるようになった。どこか機械的だった彼女はもういない。
「ありがとう。その、なんだ、すごく嬉しいよ」
「ああ。だが、感謝なら私こそしなくてはならないだろうな。貴方は私にたくさんの大切なものをくれた。だから、私は今自分の意志で戦えているんだ。ありがとう」
彼女が首だけ動かし、じっとこちらを見つめる。
「私は大事なものを守る。何があっても。そして、その中には当然貴方も入っているんだ」
力強く放たれたその言葉は俺に深く刺さる。
今まで守ることばかりを考えてきた。だが、彼女は俺も守ると言った。
改めて口にされるとそれはゆっくり心に染み込んでいく。昨日サクラの前で泣いたばかりなのに少し涙ぐみそうになる。
だが、それは気合で止めた。戦いが終わって少し気が緩んでいるのかもしれない。年下の女の子の前でそう何度も泣くわけにはいかなかった。
「…………本当にありがとう。俺もレイアを、みんなをちゃんと守るよ」
「そうか。それは心強い。勇者殿の傍はどこよりも安全な場所だろう。
恐らく明日には動けるようになるはずだ。そしたらすぐに屋敷に戻ろう。私の大事なものに貴方の手が届くところまで早く連れていかなくてはな」
「ああ」
レイアは穏やかにほほ笑みながらそう言う。
そして、その笑みは誰が見てもわかるくらいに彼女の表情に現れていた。
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