第40話 正しき道
視界が戻る。元いた平原に戻って来たようだ。
魔王がこちらを怪訝そうな顔で見ている。
「これは……どういうことだ?いや、君は誰だ?」
そうか。姿形が変わっているんだったか。
これで化け物の仲間入りみたいなもんだしなー。
そう考えると元のイケメン顔は少し名残惜しいかもしれないな。
そう思った瞬間自分の体が再び輝く。なんだろうと思っているとすぐに答えはでた。
「勇者だと?では、さっきまでの姿は……。
まあいい、恐らく勇者自体が世界の異物であるが故の誤差のようなものだろう。」
どうやら、神とやらに決まった形はないらしい。思い描いた元の姿に変わったようだった。
「どちらにせよ、神性を確かに感じるということは、成功だということだ。
では、幕引きといこうか。死にたまえ」
魔王がとてつもなく大きな黒い魔力の塊を放つ。
それは、まるでブラックホールのように全てを飲み込みながら迫り、俺に直撃した。
辺り一面を黒に塗りつぶすような大きな爆発が起きる。
「はっはっはっはっは。これでこの醜い世界ともお別れだ。
全てを滅ぼし、私は別の世界にでも行かせてもらうとしようか」
「それは無理だな」
「は?」
相手に一瞬で近づくと思いっきり殴り上げた。
空に向けて吹き飛ぶ魔王。そして、空気を足場にしながらそれを追いかける。
相手は空中で体勢を立て直したようだ。こちらに向けて魔法を連射してくる。
どうやら少し、力を入れ過ぎたらしい。逆に風が出過ぎて相手を吹き飛ばしただけに終わってしまったようだ。体が力に振り回されているのが分かる。
相手の魔法を全て聖の魔法でかき消す。そして、かき消してもなお勢いの衰えないこちらの魔法が魔王に食らいついた。
「……なんだ、その力は?」
片腕を無くした魔王がそう呟く。
「神の力さ。お前のがよく知ってるだろう?」
「違う!!同等の神同士でこれほど力量差があるはずが……まさか、全ての神の力を手にしているとでもいうのか?」
魔王の顔が驚愕に染まる。
「なぜだ!?そんなことができるはずがない!!私のように神をこちらの世界に引きずり込むのではなく、わざわざ向こう側の世界に飛ばしたのだぞ?魔法は行使できず、ましてや話すことすらできないはずだ」
片方の手に闇で剣を作り上げると空気を置き去りにするような速度でこちらに向かってくる。
こちらも同じように光の剣を作り上げ、突撃する。
交差する刃は、一瞬の均衡の後に片方をかき消して進んだ。
斬り飛ばされた腕が舞う。
「こんなはずじゃなかった。なぜだ……なぜだ!なぜなんだ!!??」
両腕を失った魔王が叫ぶ。
「貴様はなぜ邪魔をするんだ。」
「世界がどれだけ汚いか知っているか?私も最初は融和を目指した。だが、ダメだった。
獣人は他の者と関りを持とうとしない。人間は同族とすらも殺しあう。エルフは全てを見下している。
そして、私は歴史を紐解く中で、この世界が憎しみ、嫉妬、恨みに塗れていると知った。
それに、我々がそれを糧にして生まれたことも。世界は滅ぶべきなのだ」
「なのになぜ貴様はこんな汚い世界を救う?この世界に良い部分など一つもないだろうに」
その目に血の涙を流し、魔王がこちらに問う。
魔王にもいろいろあったのかもしれない。その行為は容認できないが。
でも俺は、今はその問いに答えなくてはならないと思った。
「お前の言うことにも一理ある。この世界にはどうでもいいようなやつや、どうしようもないやつが溢れている。
それこそ、屑としか呼べない連中もたくさんいる」
「でも、でもさ。そうじゃない人たちもたくさんいるんだ。
お前がもっと近づけば世界の素晴らしいことにきっと気づけたはずなんだ。」
「お前は一人よがり過ぎたんだと俺は思う。
全ての生き物を殺し、魔族も滅びてもいいとさえ考え、一人で生きることを選んだんだ。」
「人は一人じゃ生きていけないんだよ。とはいっても俺もこの世界に来て改めて気づいたことなんだけどな」
「終わりにしよう。俺は大切な人を守る。そして、そのついでに世界も救う」
もう一度その手に剣を構える。
「こんなことは許されん。許されんのだ!私は全てを紐解いてきた。
その真理に触れ、神にすらなった!私の答えが間違っているはずがない!!」
魔王がこれまでとは比較にならないほどに圧縮した魔法を放つ。
その魔法に剣を構え走り抜ける。俺の剣は全てを貫き、魔王をも貫いた。
「一人じゃ何もできないんだよ、魔王。
神すらもそうだとお前は知っていたはずなのに」
そして、俺は全力で魔力を放出した。
魔王の体が粒子となって消えていく。
「カーテンコールだ。でも俺は一人では壇上に立たない。みんなで立つことにするよ」
≪戦いは終わる。その答えが正しいかは本当はわからない≫
≪人はただ、自分が正しいと決めた道を歩くしかないのだから≫
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