第22話 仕事はだいたい段取りで決まる

生誕祭の翌日、俺は動き出していた。




 使用人に頼み、紙を借りると、計画案を作成していく。


 思っている案があるが、おそらくかなりの下準備が必要だろう。


 そして、それには多くの人が関わってくる。




 仕事と一緒だ。相手に理解してもらえるような資料を準備する。


 その上で関係者に話を通し、各工程を進めていく必要がある。




 計画案を書き終わるとまずレイアに会いに行く。




「屋敷の敷地を一日だけ使いたい?なぜだ?」




「とりあえず、計画案を作った。みてくれるか?」




「…………ふむ。子供たちのためにか。いいだろう。好きに使えばいい」




「ありがとう。何かあったら必ず俺が責任を取るから。」








 そして次、サクラに会いに王宮へ向かう。




「王都内での大規模魔法の使用許可ですか?なぜでしょう?」




「とりあえず、計画案を作った。みてくれるか?」




「…………なるほど。子供たちのためにですか。わかりました。私の方で手配しておきましょう」




「いいのか?ありがとう。本当に恩に着る。」








 そして次、商店街に行ってそれぞれにお願いしていく。




「屋台の手伝いを?そりゃまたどうして?」




「とりあえず、計画案を作った。みてくれるか?」




「…………なるほどなー。子供たちのためにか。いいぜ!常連の勇者様の頼みだ。手伝うよ」




「ありがとう。店を閉めた分は全て俺が補填するから頼むよ」








 そして次、孤児院に行ってお願いする。




「子供達をですか?理由をお聞かせ願っても?」




「とりあえず、計画案を作った。みてくれるか?」




「…………ほうほう。子供たちのためにですか。そういうことならこちらからもぜひお願いします。」




「ありがとうございます」






 一日駆けまわってようやく関係者への根回しが終わった。


 後はアオイに話をして明日から本格稼働だな。




 最近は毎日のように来るので、今日もアインに会いに俺の部屋にアオイが入ってきた。




「アオイ、遊ぶ前に少しいいか?」




「なに?勇者様」




「ああ。ちょっとこっちに来てくれ。話がある」




「わかった」








 俺の計画の概要はこうだ




●達成目標 


子供達が楽しめること。




これは姉妹に限っていない。孤児院の子も当然含めている。




●イメージコンセプト


前世の学校で行われていた文化祭




生誕祭の焼き直しでもいいのだろうがちょっと趣向を変える。


まず、何個かのグループに子供達を分ける。そして、商店街の賛同してくれたメンバーをグループ統括者として配置していく。




大人はあくまで補助役で子供たちには自分たちの店をしっかりと運営させる。交代で休憩に入りつつ店をやる側と体験する側のどちらも楽しんでほしい。




それに、今後のためにも街の人と交流を深めたり、将来孤児院を出た後に働けるような財産として経験を得て欲しいという気持ちもある。




●その他


統括:勇者(兼閉幕イベント担当者)


会場:ヴァルキア公爵家邸宅




王都の上層部への説明はサクラが行ってくれる。








 簡単にまとめてアオイに説明した。


 すると、アオイが抱き着いてくる。




「ありがとう。勇者様」




「おいおい。まだ何にもやってないんだぞ?


 大人はいるが、今回は子供の活躍がカギだ。そして、お前は子供の中で唯一祭りを見てきた。


 姉ちゃんに祭りを教えてやるんだろ?」




 頭を撫でながら声をかける。




「うん。頑張る!いっぱい頑張る!!」




 そうだよ。子供はこういう笑顔じゃなくちゃ。俺もいっちょ頑張ろう。















 それから一ヶ月ほど準備に費やし祭り当日を迎えた。




 既に王都上層部には根回しが済んでいる。大規模魔法を使うということもあって民衆にも混乱が無いよう商店街からも周知をしてくれたようだ。




 あと、貴族への根回しには最初のご機嫌伺いにしっかり対応していたことが大きく影響したとサクラが教えてくれた。無駄な時間だと思っていたが、思わぬ収穫だった。


 まあ、参加したいという貴族達も多くいたが、今回は子供のためのものなのでそれは丁重にお断りした。






 全員が集合したようだ。とりあえず最初の言葉だけ敷地の主であるレイアに言って貰う。




「貴族の敷地ということで遠慮する者もいるだろう。だが、今日は無礼講だ。好きにやってくれ。


 まあ、もし何かあっても勇者様が責任を取ってくれるそうだ」




 少し緊張していた大人たちも笑い出した。


 レイアのやつめ。だが、良い傾向だ。楽しめる雰囲気が作れた。


 それに、レイアもカエデからの説教のおかげでどんどん対応が柔らかくなってきている。最近は屋敷の人間とも少しずつ話をし始めているだしな。




「みなさん。どうも、責任を取らされる勇者です。今日は皆さん楽しみましょう!!」




 祭りが開始された。






「美味しい焼き鳥はいかがですかー」




「薬草ジュースの早飲み競争だよー」




「魚釣りはいかがですかー」






 子供達の活気のある声がそこら中で響く。


 ちなみに、今日は俺が岩石から切り出した小判のようなものを通貨として渡している。


 お金の使い方も学べるようにとの配慮だ。




 あとは最後に一番稼いだ店を競うゲームのような催しもやっている。






 カエデとアオイの姿が見える。


 最初は担当の大人や同じグループの子供に対して少し距離をとっていたようだが、だんだんと打ち解け、今ではとても仲よさそうにやっている。




 今後も姉妹だけで生きていくってのは難しい。これで少しは交友関係も広がっただろう。








 子供達は交代しながら店を楽しんでいる。


 すると、レイアの姿が見えたので近づく。




「どうした?こんなところで」




「いや。貴族がいると気を遣わせると思ってな」




「おいおい。今日は無礼講って自分で言ったんだ。こっちに来い」




 レイアを強制的に中心に引っ張っていく。




「あっ騎士様だ!」




 子供達がレイアを取り囲む。そして、自分たちの店に連れて行こうと引っ張り合っている。




 慣れていないのか珍しくアタフタするレイアだが、子供のたどたどしい営業トークやら少し形の崩れた商品やらを見て少しずつ柔らかい表情になっていく。








 とりあえず、そこにレイアを放置して歩いていく。




「勇者様」




「ん?ああ。サクラか。いろいろと根回ししてくれてありがとうな」




「いえ。私も孤児院には繋がりがありますから」




「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」




「勇者様は、子供達がお好きなのですね?」




「ああそうだな。


 子供は弱い。この世界は恐らく俺が元居た世界のようには子供に甘くないだろう。


 だからさ、少しでもいい。烏滸がましいのかもしれないけど、俺は俺の手が届く範囲くらいは守りたいと思うんだよ。


 あっ!もちろん、商店街の人や勇者パーティのみんなも好きだよ?」




「…………私は勇者様を少し誤解をしていたかもしれませんね」




「いや。別に聖人とかじゃないんだぜ?俺の自己満足だよ」




「それでもです。言葉や表情ならいくらでも取り繕えると私は思っています。行動に移すそれだけで十分ご立派です」




「そうかな?」




「はい」




「そうか。それならよかったな。じゃあそろそろ俺も締めの準備をしますかね」




「頑張ってください」




「ありがとう」




 楽しい時間はあっという間に過ぎる。少しずつ暗くなってきたしフィナーレといきますか。








「みんな。聞いてくれ、もう日も落ちて暗くなった。最後に、子供達に俺からのサプライズイベントを見て貰って終わりにしたいと思う。ぜひ楽しんでくれ」








 この日のために放出系魔法を寝る間も惜しんで特訓してきた。


 神様。頼むよ。子供達の笑顔を作るくらい、世界を作り変えられるあんたらならなんてことないだろ?




 気合を入れ、魔法に集中していく。複数属性の同時使用はこの短期間じゃ無理だった。


 それ故、単発で魔法を放っていく。






 まず、安全な距離を地上から取るため、土魔法で地面を高くし、そこそこの高さのステージを形成した。




 ここからの魔法は全て膨大な魔力が必要だが、聖剣から魔力を供給している俺には関係が無い。


 だから、全力で魔力を練り上げていく。






 まず、思いっきり火を上に打ち上げた。そして、風魔法で竜巻を起こす。


 すると、火柱が渦を巻いてファイアトルネードを形作った。




 鋭い光が周囲を照らし、力強いさを表現する。






 次に、氷でクリスマスツリーのようなものを作り上げる。そして、聖魔法で光玉を形作ってイルミネーションのように光らせた。




 淡い光が周囲を照らし、美しさを表現する。






 子供達は空を見上げて楽しんでくれているようだ。




 よし、フィナーレだ。




 


 風魔法を複数放ち氷を細かく砕くと空に舞いあげた。氷の結晶が夜空に舞い散る。


 そしてその中心に大きな光玉を放ち拡散させた。それを何度か繰り返す。




 舞い散る氷の結晶が光玉の拡散した光を反射し、まるで花火のように瞬いている。


 まあ、音は花火ほど無いがそこはご愛嬌だな。






 土魔法で作ったステージを解体して下に降りると、子供達は大興奮してくれていた。




 よかった。心理的にはかなり疲れたが、何とか楽しませることができたようだ。




 それからしばらくの間、興奮は冷めず、落ち着いたころで片付けを指示した。






 


 ようやくすべてが終わったので湯あみをする。




 今日は本当に疲れた。でも、疲れたかいはあったな。




 


 子供達は帰り道も終始笑顔で、商店街の人達もその様子を見て嬉しそうにしていた。


 特に担当したグループにはそれぞれ愛着があるようで、どのグループが一番かと喧嘩するような声も聞こえてきていた。




 それに姉妹もとても楽しんでくれたようだ。


 いつもは大人びている二人も今日は無邪気に笑っていて、屋敷に帰ってからも祭りの話で盛り上がっていたようだ。そして、なかなか風呂から出てこないのを心配してメイドが見に行ったらはしゃぎつかれたのか風呂の中で二人とも眠ってしまっていたらしい。




 二人はしっかりしていて、初日ですらこんなことは無かった。


 今日だけは許してあげて欲しいと思う。






 本当にやってよかった。




 また大人連中にお礼の挨拶に行こうと思いながらゆったりお湯につかり体を癒した。

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