第7話 ただしイケメンに限る。※用法・用量を守って正しくお使いください
翌朝。朝食を終え、出発する時間になった。
目の前には1台の立派な紋章付きの馬車があるが、護衛などはおらず勇者パーティのメンバーだけで移動するようだ。
話を聞いているとどうやら護衛がいないのはいつものことで、勇者様が移動速度が遅くなるのを嫌がっていたらしい。
どうやら荷物の最終確認が終わったようで獣人の巫女様がこちらへ近づいてきた。
「勇者様。準備が整いました。おそらく残り2人もまもなくこちらへ来ると思いますので来たらすぐに出発いたします」
「ああ、わかった」
そうしているとどうやら噂でっきた女騎士様とエルフの姫君らしき2人がこちらへ歩いてきたので挨拶をする。
「おはよう」
「「………」」
女騎士様は軽く頷いただけだし、エルフの姫君様に至っては無言で顔をしかめてるんだが。
獣人の巫女様は当たりが柔らかいから油断していたが、これはかなり機嫌を損ねているかもしれんと冷や汗が流れる。
「勇者様。出発いたしますので馬車にお乗りください。」
「あ……ああ。」
正直本物は知らんが俺は乗馬なんかしたことないので馬車なのは助かる。
しかも他3人は外で警護と馬車の操作に回るようでこの気まずい関係の中車内で過ごすということにはならなそうだ。
◆
あの2人の不機嫌さは例のフルチン事件が後を引いていると考えるのが妥当かなー。
移動の基本配置が阿吽の呼吸でできるってことはそれなりの時間をパーティとして過ぎしてきたんだろうし。
それに、最初の時は命の奪い合いであまり顔を覚えていなかったものの、今朝改めて鏡を見たときの勇者はやはり超絶イケメンだったし、その上『清廉潔白、無欲で、心優しく、弱者の味方』だったら嫌われる要素全くないもんな。
ただしイケメンに限るの理論でイケメン=歩く免罪符かと思っていたがさすがに限界があるわけだな
あとは、一番大きな問題として初対面じゃないから当然自己紹介が無い。だから巫女様含め名前も全くわからないんだよなー。
これはラッキーチャンスを虎視眈々と狙っていくしかないか。
そんなことを考えていると急に馬車が止まった。
なんだろうと思っていると若干話し声が聞こえるので外に出ることにした。
そこには獣人の巫女様と2人の男性達がおり、何度も頭を下げる男性達に巫女様が困ったような笑顔で対応しているようだ。
ちなみに、騎士様とエルフの姫君様は我関せずと馬に乗ったまま動く気はないらしい。
「どうしたんだ?」
「これは勇者様。お騒がせしてしまい申し訳ありません。近隣の村の方のようなのですが少し引き止められてしまいまして」
「あなたが勇者様ですか?私はこの付近にあるハジの村のものです。わが村の近くに強大な魔物が現れてしまい、何卒お力をお貸しいただきたい」
「魔物?そういったものを討伐できるような人は他にいないんですか?」
「いえ……そういったことを生業とする冒険者がいるにはいますし、ちょうど今も街に依頼を出しに行った帰りなのですが。正直、こんな辺境の貧しい村ではそこまでの報酬は払えずほとんど門前払いのようにされてしまいまして。
このままでは勝算は全く無いものの自分たちで戦うほかないと失意のまま帰路についていた最中、噂に聞いた勇者の紋章付きの馬車をお見掛けしたので失礼と思いつつも呼び止めさせて頂いた次第です」
「なるほど。それは大変なことになっているようですね。少し話し合いますので時間を頂いても?」
「はい、勇者様にもご都合があるとは思いますので。」
巫女様を連れて馬車から少し離れたところに移動する
「正直助けてあげたいと思っている。ちなみに、夜会は出なくても問題ないものなのかな?」
「夜会自体はごく私的なものですので欠席でも問題ありません。ただ、かなり楽しみにされていたのに本当によろしかったのですか?」
「目の前ですごく困っている人がいるならさすがにそちらを優先するよ」
「……そうですね。かしこまりました。」
話し合いを終え、男性達の元へ戻る。
「お待たせしました。私にできることなら力をお貸します。村に案内してもらえますか?」
「本当ですか!?ありがとうございます。では、我々の後ろからついてきてください。」
男性達は相当追い込まれていたようでこれ以上ないほどうれしそうな顔で先導を始めた。
◆
村に着き、馬車を置くと村長も合わせると言われ家へと案内された。巫女様と一緒に向かい、家に入ると初老の女性がお茶を出してくれた。
どうやら村長の奥さんのようでここまで連れてきた村人から既に説明を受けているようだ。
「村長を呼んできますのでしばらくお待ちください。」
「わかりました。」
しかし、村を見たが、言っていた通り貧しいように感じる。ここに来るまでに村を見てきたが、村人達の中で体つきのいい男は一人もいなかった。
ただ外に出稼ぎに行っているということかもしれないが。
そんなことを考えながらお茶を飲んで過ごしていると一人の男性が入室してきた。
「失礼いたします。私はこの村で村長を務めているオーナムと申します。お力添えを頂けるとのことで深く感謝いたします」
「私は勇者様の補助を任せられているサクラ・キリュウインと申します。そして、こちらが今代の勇者様となります。
魔物が現れたとのことですが、状況を伺ってもよろしいですか?」
「はい。2週間ほど前、村人が森に入った際、銀色の毛並みをもつ狼を見かけたようです。
そして、その直後から家畜が襲われるはじめ、対策のため夜警を始めた者達も死にはしないものの怪我を負ってしまいました。
街への依頼を検討し始めたところに、ごく稀にこの村へ来る商人がたまたま訪れたため情報が無いかを聞くと、その銀色の狼は銀狼と呼ばれる強力な魔物だと分かったため街へ依頼をしに行ったという経緯となります」
「銀狼ですか……それは極めて厄介ですね。
おそらく、街で門前払いというのも報酬も理由の一つでしょうが、そもそも受けれるような高位の冒険者がいなかったということもあるかもしれません」
「教えてくれた商人も強力な魔物という程度しか知らなかったようなのですが、その銀狼というのはそれほど強いのですか?」
「そうですね。銀狼はその毛が強力な対魔法性を持っていて並の魔法では効果がありません。また、同時に刃も通さぬほどの硬度もあり、傷つけることさえ難しいほどです。
加えて、極めて移動速度が速くかつ知能も高いので近接戦闘ができない後衛がいる場合は集中的に攻撃されるようです。
ただ、銀狼は普通の狼とは違い、群れることは無いので恐らくいるのは1匹だけかと思われます」
「それほどの魔物だとは……」
「私も直接戦闘したことはありませんが、容易に勝利できる相手ではないでしょう。一度作戦を話し合いますのでいったん失礼させて頂いてもよろしいでしょうか」
「わかりました。何かお手伝いができることがございましたら何なりとお申し付けください」
村長宅を出て馬車に戻る。他の二人は視線を向けてくるがそれだけだ。相変わらず関係は険悪のようだ。
「勇者様、情報の整理と作戦の検討を話し合わせてください」
「わかった」
「まず、我々のパーティの戦力の再確認となりますが、こちらに以前王国提出用にまとめた報告書がありますのでご覧ください。全体としては前衛2人、後衛2人の計4人となります」
報告書とやらを確認する
●報告書
構成人数:4名
基本戦術:勇者の攻撃力を活かした一点突破後、後衛による範囲攻撃。
混乱を発生させた上で勇者が更に前進、騎士が後衛を護衛する形で後に続く。
【前衛】
①道木どうき 遊尽ゆうじん
役職:勇者
種族:ヒューマン
属性:聖(万能)
全能力値が高く、隙が無い。ただし、戦闘技術自体は拙く、聖剣に頼った力任せによる戦闘が主となる。
②レイア・フォン・ヴァルキア
役職:騎士
種族:ヒューマン
属性:土(防御強化)
魔力の流れを見ることが可能な魔眼保有者。元々近衛騎士の所属であるため戦闘技術も高い。防御強化の魔法に加え、魔眼による魔法感知を組合わせることで鉄壁の防御を誇る。
【後衛】
③フェアリス
役職:魔法使い
種族:ハイエルフ
属性:風(速度強化)
膨大な魔力を持ち、強力な魔法を連続で行使することができる。また、千里眼・風読みを種族特性として持つため、千里眼による周囲の索敵及び風読みを活かした長弓による狙撃が可能。
④サクラ・キリュウイン
役職:巫女
種族:獣人(狐)
属性:水(回復)
強力な回復魔法に加え、多様な薬の調合が可能。また、東方の武器である刀を使った近距離戦闘を行うことができ、完全な前衛は難しいものの、一時的な戦線維持を担う遊撃手としての役割も可能。
なるほど。あの戦場で勇者が単独行動していた理由は一転突破が役割だったからか。仲間がいるならなぜ、と後で不思議に思ってたんだよな。
しかし、ようやく名前を手に入れることができたか。これは思わぬ収穫だな。
まあ、今はとりあえず魔物のことを考えよう。
「それでは、今回の作戦について、
これまで私たちは、大規模戦闘のみしか参加しておらず、そのため勇者様単独による敵陣突破を主に据えた戦術を採用してきましたが、今回は逆にこちらが数の利を活かして戦うため足並みを揃えた戦術を採用します。
ただし、敵が後衛を狙うことが想定されるため、後衛2人は村で待機、前衛2人のみでの編成とする。
以上が私の作戦案となりますがいかがでしょう」
「わかった。それでいこう」
戦闘は不安だが1人じゃないならまあ大丈夫か。この体の性能は破格だしな。
「ありがとうございます。それでは、私の方からレイア様の方には伝えておきます。それと私の方で薬などを用意しますので準備できお声をかけさせていただきます」
「よろしく頼むよ。この近くにいるからまた準備ができたら声をかけてくれ」
「かしこまりました」
呼ばれるまでの少しの間だけでも体を慣らしておくか。
けっきょくもともとの勇者と同じように技術無視の力押しになるだろうけど。まあ現代日本人に戦闘技術なんかあるわけないし仕方がないよな
しかし、最大の不安はあの騎士様と2人でうまくやれるかということだな。
魔物よりもそちらの方が心配だ。
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