第4話 土下座じゃ許されないこともあるんだよなあ み〇を

体が重い。




 ここはどこだ。というかどうなった?確か、勇者に攻撃されて……。




 意識が覚醒する。


 ベッドの上に寝かされているようだ。


 体の拘束も特段されていない。




 そして、手を動かして。服を着ていることに安堵する。


 これだよこれ、この布一枚分世界と隔たれているだけで俺はどこまででも行けるような気がする。




 とりあえず、少し落ち着いてきたのでベッドを出る前に俺の年齢ではお約束の儀式だけしておく。


「知らない天井だ…………」




 よし!気持ちも切り替えたし情報収集でもするか。




 さっきから場所を知ろうとしても初日サポートの情報が開示がされないため、最低でも1日経過してしまっているようだ。


 拘束をされていないから人間側の勢力地だと思われるが、それでも俺は偽勇者。バレたら悪即斬されかねないので現状把握が重要である。




 とりあえずベッドから降り、時間稼ぎになるかもという思惑で、布団の中に人が入っているように見せかける。




 そして、ドアではなく窓側から出られるかを確認し、可能なことを確認。




 しかし、外に出る直前、丸腰であることに気づいた。


 なんか武器がいるなと考えた瞬間、目の前に光の粒子が出現、聖剣に変化する。




 唖然とする俺。


「聖剣ってすごいな」




 アホみたいな感想だったが、これで武器の問題も解決したため外に出る。


 勇者ボディ(偽)の身体能力を活かし、壁面を伝いながら屋根に上がった。




 どうやらここは2階建ての立派なお屋敷らしい。


 だが、それほど配置されている人間は多くなさそうで予想よりスムーズに偵察は進んでいる。




 加えて身体能力が高すぎるのでパルクール的な移動もお手の物だ。


 こりゃ蛇仕様の段ボールがなくてもスニーキングは余裕そうだな。




 まあ目ぼしいものは何も見つかっていないんだが。




 屋上を進む途中で下の部屋から声がするのに気づき、耳を澄ました。


 人の声に加えて調理の音が聞こえてくる。どうやら厨房のようだ。




「そういえば勇者様が運ばれて数日経ったがまだ目を覚まされていないみたいだ。」


「らしいな。」


「ところで、勇者様と言えばどんなイメージだ?」


「なんだ突然?優れた容姿、一騎当千の力を持つだけでなく清廉潔白、品行方正、無欲で、心優しく、弱者の味方だろ?新聞やらなんやらで毎日言ってる」




 ふむふむ。勇者は清廉潔白、無欲で、心優しく、弱者の味方ね。


 オッケー、把握した。これから勇者を演じなきゃならなそうだし参考にさせて貰おう。




「だよな?けど最近そのイメージが崩れるような変な噂が出始めたの知ってるか?」


「なんだよ?」


「ああ、ここだけの話なんだが。」




 話す声が小さくなった。勇者の体は聴覚も優れているが、この部屋は雑音も多く、部分的にしか聞き取れなくなる。






「――――、――――青空の下――――仕事している間に―――――。


しかも、――――聖剣片手――――裸に――――お好きらしい。――――毎日のように――――」




「なに!?」




「おい、声がでけえ」




「う…すまん。――――なかなかの性癖――――」




「びっくり―――?」




「ああ。――――この屋敷にいる勇者パーティのお三方――――?――――女性だし、――――嫌悪する――――」




「――――。むしろ――――見せられた――――」






 おいおい!ちょっとまて!!


 聞こえた内容をまとめると例の変身による全裸状態による誤解で


【毎日のように、青空の下、仕事中に、聖剣片手に、全裸で、何かをするのが好きな、変態野郎】と噂され始めたってことか?




 しかも、勇者パーティの女性はそれを見せられて嫌悪していると……




 これは、めちゃくちゃやばい!


【清廉潔白、無欲で、心優しく、弱者の味方】からの落差が激しすぎる。


 偽物の違和感どころか即バレ、そのままギロチンになりかねん。




 落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない。


 とりあえず股の間に生えている2本目の聖剣を見せてしまったのだけは事実だ。そこを誠心誠意謝罪すれば土下座くらいで許してくれるはず。






「そりゃすごいな。――――勇者様はさすが――――。――――?――――お三方――――恐ろしい――――」




「だよな。


貴族出の女騎士様は――――害されれば――――問答無用――――。――――切り殺す。




エルフの姫君は――――少しでも侮辱されたら、――――四肢を吹き飛ばす。そのうえ――――。




獣人の巫女様は――――イメージを崩す――――毒で――――苦しめてから殺す。――――笑顔――――拷問官――――震え上がらせた。」






 あかん。これはストライク三振だ。むしろ三死んだ?……………………(๑´ڡ`๑)


 なんてオヤジギャグ言ってる場合じゃねえ!!


 一度冷静になって情報の整理をしよう。




 まず貴族出の女騎士。


 害されればどんな些細なことでも切り殺される⇒精神的苦痛=フルチンアウト




 次にエルフの姫君


 少しでも侮辱されれば四肢を吹き飛ばされる⇒性的侮辱=フルチンアウト




 最後に獣人の巫女様


 イメージを崩すようなことをすれば苦しむような毒殺⇒変態勇者=フルチンアウト




 オワタ。初手からチェックメイトだ。神の一手どころか下の一手だよ…………




「おっと、噂をすれば例の巫女様がいらっしゃったようだぞ。いつも通り勇者様の部屋に薬を飲ませがてら果実水を持っていかれるようだ。」






 やばい!!集中し過ぎた。すぐに部屋に戻ろう。


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