ボクは4本

いとい・ひだまり

ボクは4本

パパとママは2本だった。

ボクは生まれた時から4本だった。


周りには2本がたくさんいた。

けれどこの世界に4本がボクだけというわけではなかった。今までで、何度か4本を見たことはあった。楽しそうなひとも、悲しそうなひとも。


みんなボクを不思議な目でみた。

けど、ボクにとっては4本が普通で、2本がめずらしかった。



4本は便利だった。作業をする時はよく役に立ってくれた。


パパとママはボクの体について特になにも言わなかった。

ボクのことをよく褒めてくれたし、たくさん遊んでくれて、愛してくれた。



少し時が経ち、ボクは学校に通うようになった。

先生はボクを気味悪がって、1番遠い席にした。周りの子も、怖がって一緒に遊んでくれなかった。

街に出ると、ボクを避けるひとはたくさんいた。だから、これもいつもの光景だった。

だけど、隣の席の子はちがった。その子は人間ではなかったけど、みんなと仲がよかった。

「一緒に遊ぼう!」

そう言って耳をぴょこぴょこさせながら、1人でいたボクの手を引いてくれた。

みんなはボクを怖がってはいたけれど、その子のおかげで少しだけ、話してくれるようになった。

先生は……相変わらずボクのことを嫌がったけれど。



「――ねえ、学校終わったら公園で遊ぼう」

いつもみたいに言う。

「うん、いいよ!」


おままごととか、かくれんぼとか、鉄棒とか、いっぱい遊んだ。

「また明日も遊ぼうね」

その子の方から言ってくれた。


「ただいまー」

「おかえり。友達と遊んでたのか?」

「うん、また明日も公園で遊ぶ約束したんだよ!」

「あら、よかったねえ」

「うん」

パパとママが顔を見合わせてにっこりした。それからボクを抱きかかえて

「楽しそうで安心したよ」

って、言ってくれた。



――朝、通学路にいつもの背中を見つける。ボクは走って追いつくと

「おはよう!」

と言った。


「……おはよう?」

返事がなくて、もう1回言った。けどやっぱり返事はない。

「ねえ、どうしたの?気分がわるい?」

「……話しかけないで」

「え……なんで?」

「……ママが言ってたの。4本は『いじょうしゃ』だから、話しちゃだめって」

「なんで……?」

突然のことで意味がわからなかった。

「いじょうしゃだから。あたしママに嫌われたくない。だからもう君と話さないし遊ばない」

……昨日まで一緒に遊んでたのに?……なんで?

「……やだ。……昨日、約束したじゃん」

「だめ。だめなものは、だめ。これ以上あたしに話しかけないで」

「でも……」

「きもちわるいから、あっち行って」



――涙が出た。

状況も理解できないまま暴言を吐かれ、悲しくて、悲しくて……ボクは家に向かってひたすらに走った。



昨日まで普通に遊んでいたのに……あんなに仲良しだった筈なのに……

なぜ急にあんなことを言ったのか、いくら考えてもわからなかった。

「……どうして?」

ただ、それしかでてこなかった。


ガラスに映る、自分の姿をみる。

ほかの人とは違う。

4本だ。

……4本。

『4本はいじょうしゃ』

その言葉が脳裏をよぎった。

……なぜ?どうして4本はいけないの?

獣人だって、巨人だって、小人だっているのに。どうして4本は……


「――あ、ママだ」

スーパーに入っていくところが見えた。……しばらくは家に戻らないだろう。



……ボクは台所に向かった――

「……これで、できるかな……?」




――血のにおい。

嫌なにおいだ。


赤いしぶきを浴びたランドセルが、近くに転がっている。



……イタイ。


血が止まってくれない。


完全に断ち切るにも切れなくて、かといって元に戻るわけもなく……ボクの2本の根元は、ぐちゃぐちゃに抉れて骨が見えている。



イタイ……

……イタイ。



……ぎゅうぅッう……

切ったところを、動く方の2本でおさえる。……血が伝って、床に落ちた。



…………イタイ……。


――やっぱり、切らなきゃよかった……?



……ぴちょん……ぴちょん……


水音が絶え間なく聞こえる。


……あったかい。



――赤く染まって、ただの生ゴミのようになってしまったそれは、かろうじてボクにくっついているみたいにみえる。自分の一部で、大切にしていたはずなのに、自らの手でこんなにボロボロにしてしまった。もう、使えないかもしれない。……いや、その前に死ぬかもしれない。床はもう血だらけだ。


動かない2本がかなしそうにボクをみていた。

……ごめんね。ボクが1番、ボクのことを愛すべきだったのに……

大切なからだ、傷つけちゃった……パパとママがくれた、大事な、からだ……


遠ざかる意識の中で、ママの声が聞こえた気がした。


……ごめんなさい、ママ、パパ……




(後書き)

助かれ!

救急車で運ばれてなんか腕治って元通り動かせるようになってて。



人と違うと変な目で見られることがあるかもしれません。でもいいんです。人それぞれですから。

みなさんは自分のことを愛していますか?世界に1人だけの存在です。どうか大切にしてくださいね。


他にも何作か出しているので興味のある方は是非。

いいねやコメント、お待ちしています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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ボクは4本 いとい・ひだまり @iroito_hidamari

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