雨の日は、あなたの傘に。

masato

 序幕

 心地良い。あぁ、心地良い。このまま、横になっていたい。


「一人でもいいの?」


 出来れば二人がいいけど、それが叶わないのなら、この場所に居る意味はないのかもしれないな。


「どうする?」


「どうしようか?」


 起きてしまおうか、そうすれば嫌なことを思い出さなくて済むのだから。


「順平。こっちだって」


 順平じゅんぺい……。そうか、僕の名前か。誰かが僕を呼んでいるんだね。


「順平。そっちじゃないよ! こっちだよ!」

「早矢香。僕だって分かってるよ」

「本当に? 本当に分かってるの? 怪しいなぁ」


 早矢香さやかは、長い髪を風に靡かせ微笑んでいた。


「僕も一緒に行こうかな」

「それは駄目。無理よ順平には。まだ早い気がする」

「そうかな。大丈夫だと思うよ。だって……」

「駄目だってば!」


 彼女の顔から笑みが消えた。暫くの沈黙。僕は彼女を見ることが出来ない。


「だから順平はそっちじゃないの。こっちなの」


 僕は、彼女が示す方へ視線を向けた。


「わかった?」

「……うん」


 視線を戻すと、そこに早矢香の姿はなかった。


「早矢香! 早矢香! どこ? どこに行ったの?」

 辺りは真っ暗になっている。僕は……、気が付くと叫び出していた。何もない世界に迷い込んみ、恐怖に怯えた子供のように。


「順平。私はね。もう死んだのよ」

 何処からか聴こえる声に耳をそばだれる。

 どれくらいの時が流れただろう。もう、聴こえくることはなかった。


 そうだ。彼女は……死んだ。もう……この世界にはいない。


「どうして? どうして死んだんだよ! どうしてだよ!」


 返事はない。


「行くよ。そっちへ。早矢香が何て言おうが僕はもう決めた。もう……戻らない。いいだろ!? もう、戻らないからな! いいだろ? ねぇ! 早矢香!」


 言った後に、僕は左の瞼を開けた。

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