第11話 張り詰めた空気

 辺りは静まり返り、異様な空気が漂っていた。少しずつ自分達のおかれている現状に、皆は気づき始めていた。僕、以外の人たちは口々に彼女の様子を言葉にし始めている。さっきまで、聴き入っていた早矢香の美しい声は忘れ去られ、無いものとなっていた。僕は、そんな人たちを威嚇しようと睨み、それを気づかせようと、わざと小さく咳払いをした。

 ドサっという鈍い音と振動が、微かな風と共に足元から伝わる。それが何なのか、しばらく理解できなかった。確かめるように自分の足元に視線を落とす。僕は、いつものように白のコンバースを履いている。お気に入りのシューズだ。少し重いけど歩きづらいという事はない。中敷きを抜き取っているからクッション性がなくなり地面の感触が足の裏全体に強く伝わる。何よりもシンプルなデザインが好みだった。つま先が少し泥で汚れていたけど、それも似合う数少ない靴だ。


「えっ!」

 僕の前に立っていた冬実は、誰よりも先にその音に気付いていた。そして、僕に向けて腕を伸ばしすと指を差し、言った。「……う゛、う゛。い、いやぁ」


 小さく細い彼女の目は見開き、みるみるうちに恐怖のカーテンが引かれていく。その目に、僕は映ってはいないようだった。

 僕は振り向き、後ろに見えたいつもの風景の更にその先に、視線を送った。アスファルトで舗装されていない土の地面。整えられた芝生。そこにめり込むように体を打ち付けている物。なんだろうか? 僕は理解できないでいた。否、脳が視覚からの情報を拒絶しているのかもしれない。それでも僕は視線を外すことは出来ないでいた。色の付いた液体が頭から漏れ出している。そこに付いている瞳は閉じられぬまま、何かを訴える様に僕達を訝しい表情で見つめていた。

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