君に恋する青い月

水無月杏樹

プロローグ

春の陽射しは、どうしてこんなにも優しいのだろう。

四月の女神さまが子守唄を歌ってくれているかのように、眠りの世界に誘われる。

森の中、きらきら輝く湖の上を二匹の蝶が舞い踊り、まるで舞踏会を楽しんでいるようにも見える。

湖の畔には、水を汲みに来た少女が一人。

ボロボロの洋服を着た少女は、そんな蝶のダンスを見ながら、いつしか自分もお城のダンスパーティーで素敵な王子様に出会える日を夢に見て水面に自分の顔を映した。

そっと水に右手を浸してみた。

ゆっくりと揺らいだ鏡のような水面は、波紋を広げてますますきらきらと光を反射した。

揺らめきが収まったとき、後ろにもうひとりの姿が映っていることに気が付いた。

優しくほほ笑む王子様。振り返ると、彼は跪きこちらに右手を差し出して笑っている。

彼の手をそっと取ると、柔らかくてどきどきした気持ちは止められなくなった。



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