第175話 蟲のダンジョン 中層②
11層の”マッピング”は縦穴を含めて全て終了したため、俺は12層へ続く階段を上った。
そして、12層に上がって目の前に広がったのは草がボーボーに生えた草原だ。
『…え?』
俺が知っているダンジョンの中とは、石のように見える破壊不能オブジェクトで作られた、薄暗い閉鎖空間だ。
しかし、現に目の前に自然が広がっている…
『…ここは攻略本をカンニングしよう。』
「以前”ダンジョンの本質”で説明したが、ダンジョンは悪魔の住処である。よって、深層に行けば行くほど生存に適した空間となっている。そして、ここ12層は悪魔の家畜であると考えられる。ここの魔物は繁殖力が高いため、悪魔の食事である魂を生産しやすいことから立てた推測である。」
とのことだ。
全く持って納得した。
『…ってこの作者他の本も出してたのか。見つけたら今度読んでみるか。』
ここで一つ、問題が発生した。
そう、それは閉鎖空間ではなくなったため”毒魔法”による一掃ができなくなったことだ。
『まじか…あれめちゃくちゃ楽だったんだけどな…』
そんなことを思っていると、早速”レーダー”に大量の反応があった。
半径50m以内だけで19匹の生体反応がある。
”千里眼”で偵察してみると、それはバッタの魔物だった。
『なるほどな…確かにバッタは大量発生するからな…』
観察していて分かったのだが、対峙するのは結構厄介かもしれない。
魔物化して身体が巨大化したことで足の筋力も強化されているため、跳躍力や移動速度が非常に増大しているのだ。
『もしかして…時速80kmくらいあるんじゃないか…?』
身体が一般車くらいに巨大化していることもあり、自然と車を想像させられた。
しかし、この素早さの敵をどう倒すか…
普通の魔法や武技攻撃では軽々躱されてしまうだろう。
となると、罠か奇襲だ。
『…いや、ちょうどいい機会だ。素早い敵に魔法を当てる練習をしよう。』
一番当たる可能性があるのは、攻撃速度が最も早いバレット系の魔法だ。
次に可能性があるのは、範囲攻撃系の魔法だろう。
限界突破魔法を行使したら余波でも倒せるだろうが、それだと面白味に欠ける。
『…そうだ!”ウェポンマスター”で扱う武器みたいに魔法にも”追尾”の効果を付与できるんじゃないか…?』
まずは試すために一匹だけのヘイトを集めたい。
そう思って一番近くにいたバッタ魔物に短剣を投げた。
『そしてこっちに向かってきたところを”結界魔法”で捕獲、隔離して…え!?』
俺の投げた短剣は寸分違わずバッタ魔物に近づいていった。
そして、そのまま貫通して風穴を開けてしまった。
『…あ、そうか。素早いと言っても”危険察知”スキルがあるわけではないから奇襲に気づかないのか。』
死んだ魔物を”鑑定”すると、魔物スキルは”跳躍”で使い勝手が良さそうだったので”略奪”しておいた。
これほど素早い魔物は滅多に遭遇できないので、残りの魔物から”略奪”するついでに魔法への”追尾”効果の付与を練習しよう。
敢えてバッタ魔物の目の前を通ると、相手は一直線にこちらに攻撃してきた。
俺はそれを何とか回避し、火属性魔法”ファイヤーバレット”で追尾攻撃を仕掛けた。
今度は俺の攻撃に気付いたようで、バッタ魔物はそれを回避しようと上に跳躍した。
『…今だ!』
宙に浮いて無防備になっている相手に向けて”ファイヤーバレット”を追尾させ、燃やし貫いた。
『成功だ…!!』
喜んだのも束の間、後方40m付近に強い存在感を感じて警戒態勢を取った。
何故考えが至らなかったのだろう。
バッタが増殖しすぎると、例えダンジョン内といえども生態ピラミッドの調整が入るということを。
”千里眼”で見るまでもない。
奴は体長8m程の巨体で、バッタ魔物を貪っている。
…そう、カマキリの魔物だ。
『でかい…それに、あの鋭い鎌は危険だな…』
”鑑定”すると、単純なステータス値ではバッタ魔物を大きく上回り、それどころかグレイの1/20くらいあった。
並みのAランク冒険者パーティでは全滅を免れないほどの強さだ。
『特殊なスキルは…ん?』
そこには”捕食”というユニークスキルが載っており、効果は捕食することで相手のステータス値の1/10を自身のステータス値に追加するというものだった。
そして、ごく稀に相手のスキルをも自身のステータスに加えるという…
『このまま放置して成長し続けたら…危険だな。ここで仕留めよう。』
今は幸いなことに食事に夢中になっているので、このうちに倒してしまおう。
俺は”手加減”スキルを行使して火属性魔法限界突破Lv.1”業火球”を行使した。
「…これでざわざわと鬱陶しい草まで焼き尽くしてくれ。」
数十分後
火が収まったので周囲の結界を解除すると、焼け野原が広がっていた。
”手加減”のおかげでバッタ魔物とカマキリ魔物両方の死体が残っていたので、俺は死体がダンジョンに吸収される前に、急いで”鑑定&略奪”をした。
また、長くなった草を焼却したことで視界が良くなり、13層に向かう階段を見つけた。
『…よし、13層に行くか。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます