第145話 盗賊退治 準備

『盗賊退治の依頼だったかぁ…冒険はまだ先になりそうだなぁ…』




そんなことを考えながら、大熊宿へ戻った。


大雨はこの世界において傘の役割を持つ、水を弾く大きな葉をさして外を歩いた。




「皆さん、おかえりなさいませ。」




「ただいまソフィア。」




ソフィアはパーティーに参加したものの、パーティーハウスを持たないので未だ役割を与えられていない。


そのため、パーティーハウスを得るまでは大熊宿で働くことにしたらしい。




「お湯を用意しますか?」




「ああ、4人に頼む。」




「かしこまりました。では、お届けいたしますので部屋でお待ちください。」




「アルフレッドは要らないの?」




「先に盗賊の情報収集をしてくる。そうしないと作戦も立てられないしな。」




「りょ〜か〜い。」




「き、気をつけるのです!!」




「ああ。ありがとう。」




階段を上る4人を見送り、再び外に出た。


大雨はデメリットも多いが、視界を悪くして音や匂いを掻き消してくれるので偵察にはもってこいの天気だ。




『さて…準備するか。』




普段愛用している“闇のセット装備“は動くと鎧部分が擦れてカチャカチャと音が鳴ってしまう。


今回は旅の途中で作った、強度もそれなりにある漆黒の革鎧が良いだろう。




『…よし、これで行くか。』




“魔物探知“と“盗賊探知“、“闘気操術“をTP消費50,000で行使してコルセアの街から出た。


周囲を警戒して進むこと数十分。




『…おっ、“盗賊探知“に反応がある!!』




反応した場所は、ちょうど俺達がコルセアへ向かう途中に野宿した周辺にある。


おそらくそこで野宿した人を襲うための配置なのだろう。




『個人的には帝都とコルセアの間に位置どった方が稼げると思うが…まあどうでもいいか。』




歩みを進めるにつれて、“盗賊探知“の反応数が徐々に増えてゆく。


5人…10人…15人と、止まる気配がない。




『予想以上に多いな…何か拠点でもあるのか?』




試しに“構造探知“を行使してみると、そこには驚くべきものがあった。




『なっ…!?小屋…だと!?』




見た目は見すぼらしいが、雨風も凌げる上に拠点とするには十分の広さがあった。


それに、どうやら地面を掘って地下室も作られているようだ。




『盗賊って洞窟とか使われなくなった家屋とかに住み着くんじゃないのか…?あの人達DIYしてるじゃねーか!!』




おそらく建築関係の職業から盗賊になった人がいるのだろう。


家屋の周囲に配置された見張りに気付かれないよう距離を詰めていると、“盗賊探知“の反応が止まった。




『人数は37人…いや、地下室で倒れてる3人はサリーちゃんが言ってた斥候だろうから34人か。』




1人あたり7人を相手にしなければいけないとは…


木々で視界も悪く、なかなか厄介だ。




『…強さも見てみるか。』




“闘気操術“で循環させていたTPを目に集中し、250m離れた地点から1人ずつ“鑑定“を行使していった。




『なっ…!?Lv.61、58、67…リーダーと思しき男に至ってはLv.77だと!?』




平均Lvは65程度と、これはBランク冒険者に相当する強さだ。


これならLv.55前後の斥候3人が捕まったのも頷ける。




間違いなく彼らは建築関係者ではなく、傭兵や冒険者から盗賊になった集団だろう。


かなり厄介な相手だ。




『クレア達と彼らのレベル差はたったの10か…7人相手は厳しそうだな。』




作戦を立てながら“闘気操術“のTPを耳に集中し、盗み聞きをした。




「…親方、3日後本当にあのペンシルゴン家に侵入するんですかい?確かに宝は多そうだが…心配でっせ。」




「ああ。俺たちは十分強い。…それに、彼の守護騎士でもこの人数には敵わないだろうさ。」




『なっ…!?実家に盗みに入るつもりなのか!?』




警備は厳しいし、父上や兄上ならこの程度相手にならないだろう。


だが、もし屋敷に入り込まれたら母上の命が危ない。




『…襲撃は3日後って言ってたな。前日には移動を始めるだろうし、攻めるなら明日か。』




これ以上得られる情報は無いと判断し、怒りで歪めた顔を整えながら大熊宿に戻った。




「おかえりなさいませ、アルフレッド様。」




「ただいま。」




「お部屋にお湯とタオルを用意しております。その間にクレア達を招集しておきますね。」




「ありがとう。」




用意してくれたタオルで身体を拭き、濡れた装備を着替えて1階の食堂で集まった。




「さて…集めてきた情報を共有するぞ。」




「おう!!」




時間をかけ、詳しい情報を説明した。


もちろんペンシルゴン家を狙っていることも含めて。




「…大体こんな感じだな。」




「私達だけでは厳しいんじゃ無いでしょうか…?」




「いや、俺もカバーするしなんとかなるだろう。」




「人数差はどうするんだ?流石にオレでも自信ないぞ…?」




「俺が家屋に飛び込んで“アトミックスターダスト“で仕留める。仕留め損なっても、怪我を負って動きが悪くなるはずだ。」




「初撃から両手剣スキルの奥義とはゴリ押しだね〜!!でもあたしは嫌いじゃないよ〜!!」




「ありがとうスー。」




「な、なんとかなりそうな気がするのです!!」




「そうね。アルフレッドがいる時点で私達の勝利は確定ですし。」




『それは過言だと思うが…』




「…決行は明日の11:00だ。皆、身体を休めておくんだぞ?」




「おう!!」




『さて…楽しみだな。』




というのも、斥候が捕らえられている地下室に宝の山を見つけたのだ。


その上盗賊34人のうち7人の首に賞金がかけられており、その身柄提出報酬だけでも金貨10枚と大銀貨5枚を得られるのだ。




『パーティーハウスは金貨数十枚〜数百枚かかるらしいからな…稼げるときに稼いでおかないと!!』

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