第120話 古代文明都市 保管庫

「もう…無理…」




「弟子よーーそろそろ野宿の準備を…っ!?どうしたのじゃ!?」




「疲れた…だけです…」




「お、お疲れ様なのじゃ…」




そう、あれから実に10時間ほど”鑑定”しては紙にメモをする作業をし続けたのだ。


おかげでA1~A10まで終わったが、開きっぱなしだった目と文字を書き続けた手がすごく痛い。




『10時間ハイペースで作業して引き出し500個分…このペースで続けても200時間かかるのか…』




目の前に広がる過剰労働を前に、目の光を失った。


最初こそ未知の物を”鑑定”できて楽しいと感じていたが、次第にその感情は薄れて今やただのつらい作業と化した。




”状態異常無効”スキルで過労や睡眠、空腹など全てを無効化して作業したら9日以内に終わるが…


そうすると人間として大事な何かを失う気がするので辞めておこう。




「力不足で申し訳ないのじゃ…」




「適材適所ですよ。師範は間違っていません…」




「…なら”鑑定”の作業以外は妾がやるのじゃ!!」




「助かります…」




それから師範に言われた通りの食材と調理器具を”アイテムボックス”から取り出して渡した。


今までは俺が作って保存しておいた肉を食べていたが、これからの食事は美食家エレノアが調理してくれた。




「ごちそうさまでした。美味しかったです!!」




「うむ!!」




社畜時代もしみじみと思っていたが、心が疲れた時に美味しいものを食べると元気が湧いてくるものだ。




『…よし、作業再開するか!!』




それから15日余りが過ぎた。


訓練と並行して毎日12時間以上”鑑定”作業を行い、無事に終了した。




”鑑定”作業では様々な素材や古代の魔道具、レアアイテムなどを大量に見つけることができた。


機械生命体のパーツや素材、付与した攻撃手段に使われる道具が半分近くあった。




訓練では地下7階に上がり、広い空間で行った。


折角の広い空間だったので、槍や弓などいつもはできない訓練をした。


結果、槍のスキルレベルはLv.3→6に、弓はLv.2→5に上昇した。




「師範ーー!!やっと終わりましたよーー!!」




「ご苦労様なのじゃ!!」




「ありがとうございます!!俺は身体を動かしてくるので、書類に目を通しておいてください。」




「了解なのじゃ!!」




鈍りかけた身体をほぐすべく、全力で動き回りたいのだが…


この保管庫は狭いので、1度地下7階に上がって広い空間で思う存分身体を動かした。




『ふぅ…いい汗かいたな。』




身体の熱を冷ましつつ、地下8階に戻った。


半月欠かさずこの道を通っているので、どこか愛着が湧いてきた。




「ただいま帰りましたーー!!」




「で、ででででで弟子よ!!!」




「な、なんですか!?」




扉を開けて中に入るや否や、師範が鼻息を荒くして飛び掛かって来た。


顔も真っ赤だし、滅多に汗をかかないはずなのに汗をかいている。




「お、おおおお主でかしたのじゃ!!」




「えっ?」




「”パラライズバタフライの鱗粉”に”ポイズンフロッグの猛毒”、その他にもたくさん…どれも超激レア素材なのじゃよ!!」




「は、はぁ…」




確かに聞いたことがない魔物の素材がほとんどだったし、効果も強力なものが多かった。


しかし、大して量もないのでせいぜい罠や戦闘時の小道具に使える程度だ。




「その…何か使い道が?」




「うむ!!例えば”パラライズバタフライの鱗粉”は刃に塗ればブラックドラゴンさえ麻痺させるのじゃ!!」




「そんなに…!?」




「うむ!!」




『まさかそこまで強い麻痺毒だとは思わなかった…』




もしかしたら俺が知らないだけで、ここに保管されていた全ての物はどれも超レア物かもしれない。


そして、取り扱い注意の劇物ばかりかもしれない。




”アイテムボックス”に収納して全て持ち帰りたいところだが…


流石にそうすると管理ユニットの仕事が無くなってしまう。




「…一旦管理ユニットさんに聞いてみますか。」




「ドウカシマシタカ?」




「うわっ!!びっくりした…」




「失礼シマシタ。如何ナサイマシタカ?」




「強欲だってことは重々承知なんですが…ここに保管されてた物全部もらってもいいですか?」




「構イマセン。」




「えっ、いいんですか!?」




「ハイ。役目ガ終ワッタラ地下4階ニ上ッテ妹ト一緒ニ暮ラスト決メテイマシタ。」




「そうですか…!!あ、そうだ。良かったらこれをどうぞ。」




「コレハ…?」




「妹さんとお揃いの首飾りです。」




「アリガトウゴザイマス。」




首飾りを付けてあげると、どこか嬉しそうに見えた。




「…ソレデハ、私ハ妹ノ元ヘ向カイマス。貴方達ノ未来ニ幸アランコトヲ。」




「ありがとうございます!!あなたもどうかお元気で!!」




足についたタイヤを今まで見たことがないほど早く回転させ、一目散に走っていった。


その後ろ姿は希望や幸福に包まれていた。




「…さて、”アイテムボックス”に収納して地下9階に進みますか!!」




「うむ!!」

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