第100話 迷いの森サバイバル(南部) キリングベア戦

翌朝




日の出とともに目を覚まし、早朝訓練をするべく洞窟の外に出た。


昨日と同じで心地よく晴れており、どろどろの地面は乾いて硬くなっていた。




『少し滑りやすいか…?でもこれなら慣れてるし大丈夫か。』




数時間後




『ふぅ…キリングベア戦のために体力残しておかないとな。』




いつもより30分ほど早く切り上げ、朝食にした。


食事を取りつつ、”魔物探知”でキリングベアの寝床を確認した。


寝床は変えていないようで、あの洞窟の中に留まっている。




食事を終え、作戦の吟味を始めた。




『仕掛ける時間帯は…キリングベアは夜行性だから予定通り昼間だな。』




どの生物も睡眠時や寝起きは動きが鈍い。


キリングベアは最も動きが悪いのに対し、俺は動きが最も活発化している時間帯だ。


これ以上向いた時間帯は無いだろう。




『攻め方は…やっぱり密閉空間と言えば窒息死だな。燃えやすい葉や枝をたくさん集めたし大丈夫だ。』




入り口はイヴィープラントのツタで塞いで空気を逃げにくくする。


また、息苦しいことに気付いて目を覚まし、外に出てきた時に備えてワイヤートラップを張っておく。




おそらくキリングベアの膂力を前にツタのフェンスは紙切れも同然だろう。


移動阻害のため、入り口の地面に昨日回収した泥を塗っておこう。




準備は万端だ。


装備を整え、最後に再び”魔物探知”で確認した。




『2匹とも洞窟の中にいるな。洞窟の周辺に魔物は…いない!!よし、出るか!!』




一直線にキリングベアの寝床へ向かった。


そして目的地に着くや否や、早速罠を張り巡らせた。




洞窟入り口:ツタのフェンス


洞窟入り口の足元:イヴィープラントのツタを利用した足くくり罠


洞窟入り口前の地面:泥沼




『…完璧だな!!』




キリングベア達は熟睡しており、起きる気配が全くない。


早速ツタのフェンスの内側に大量の葉や枝を”アイテムボックス”から取り出し、山にした。


そして予め用意しておいた火種をその山に入れて…




『…よし、火が付いた!!』




乾いた枝を伝い、火が一気に燃え広がった。


そして、有機物を含む黒い煙が洞窟内に充満してゆく。




待つこと数分




「グオッ…グオッ…」




『なんの音だ…?』




洞窟内から変な声が聞こえてきた。


キリングベアが寝ながら悶えている声だろうか?




さらに待つこと数分




「グオオオオオオオオオ!!!!!」




ついにキリングベアが目を覚まし、敵襲に気付いた。


雄も雌も最奥から走ってこちらへ向かってきている。




『ここからが正念場だ…頑張ろう。』




近くの藪に隠れ、罠に引っかかるのを待った。


罠まであと7m…3m…




「グオオッ!?!?」




「グオッ!?グオッ!?」




どちらも足くくり罠に引っかかり、大きな振動と共に泥沼へ倒れた。


キリングベアの番はどうして自分たちが転んだのか分からないようで、困惑している。




『…今だ!!』




“闘気操術“で纏うTPを8,000まで一気に上昇させ、身体能力を大幅に上昇させた。


そして、両手剣Lv.9“ノヴァディザスター“を行使して斬撃を放った。




さすが迷いの森で縄張りを持っている高ランク魔物と言ったところだろうか?


危険察知能力が高く、斬撃を放ったときには既に俺の存在に気付いていた。




だが、事前準備のおかげで俺の方が一枚上手だった。


キリングベア達は寝起きで動きが鈍く、その上ぬかるんだ泥沼に足を取られて攻撃を回避できなかった。




雄が雌を庇うようにして、全ての斬撃を身体で受けた。




「ちっ!!」




防御力はあちらのほうが上手だった。


ふさふさした柔らかく頑丈な体毛で斬撃の勢いが殺され、致命傷にはなり得なかった。




雄が攻撃を受けて怯んでいる間に、雌が泥沼から飛び出してきた。




『くっ…!!やっぱりこの地面には慣れてるよな…』




キリングベアの攻撃に直撃したら、致命傷は避けられないだろう。


冷静に動きを見切り、鋭い爪による引っ掻き攻撃を回避しつつ両手剣Lv.4“インパクト“を顔面に直撃させた。




『頭蓋骨硬すぎだろ…!!』




ゴッ!っという鈍い音が響き、両腕が痺れた。


だが今の攻撃で雌のキリングベアは頭から血を流しながらふらふらしている。




『このまま仕留め…ちっ!!』




トドメを刺そうとしたところで、雄の方も泥沼から抜けてこちらへ飛び出してきた。




欲張って雌のトドメを刺したら、間違いなく俺も致命傷を負うだろう。


今の一連の攻撃で片方は仕留めたかったが…仕方ない。




後方へ大きく跳躍し、雄の引っ掻き攻撃を回避した。


しかし…




「グオオオオオオ!!!!!」




『っ!!』




そう、これはキリングベアが恐れられる所以である“咆哮“だ。


半径10m内にいる自身よりLvが低い相手に“麻痺“、“恐怖“の状態異常を付与する。




Lv差無視でスタンさせるミノタウロスの咆哮よりはだいぶマシだが、それでも脅威であることに変わりはない。




『うるさいなぁ…』




だが、“状態異常無効“のスキルを持つ俺にとっては脅威のないただの咆哮だ。


…まあ鼓膜には脅威的だが。




『…そろそろ黙れ!!』




いい加減騒音にイラつき、雄のキリングベアの口内に“ノヴァディザスター“で斬撃を放った。


すると、なんと今までの苦労が馬鹿みたいに雄のキリングベアを仕留めることができた。




『体内は柔らかい訳だ。そうと分かれば…!!』




ふらついている雌の顔の目の前に移動することで、噛みつき攻撃を誘導した。


そして口を開いたところで口内に“インパクト“を行使し、内側から仕留めた。




「よっしゃぁぁぁ!!!」




師範から与えられた試験をクリアし、雄叫びを上げた。




キリングベアの死体を“アイテムボックス“に収納し、寝床へ足を踏み入れた。


食料として保存されていた魔物達と亡くなった男性の遺品を頂戴し、遺体を埋葬して拠点に帰った。

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