第30話 魔物征伐 開始

祈りを終えて礼拝堂を出ると、アランと父上は楽しげに話していた。




「おう小僧、早かったな!」




「待たせてすまない。…ジョシュア殿も、待たせてしまってすみません。」




「いえ。アラン殿から色々聞かせてもらっていたので。アルフレッドも魔物征伐に参加するんだな。」




「はい。」




「アルフレッドはまだ成人前の子供だ。くれぐれも気を付けるんだぞ。」




「ありがとうございます…!」




他人行儀とはいえ、父上と話せて嬉しく感じた。




「小僧、そろそろ集合予定時間だ。ではジョシュア殿、また。」




「ああ。」




庭に戻ると、既に俺達アランパーティ用のテントが建てられていた。


中に入ると、3人とも座って待っていた。




「どこに行っていたのであるか?」




「ジョシュア殿と模擬戦をしてたんだよ。小僧はその審判役。」




「守護騎士殿と⁉︎羨ましいのである…」




「あーしも戦いたかった…!!」




「まあまあ…とりあえず魔物征伐の予定を組もう。」




「そうですね。では…」




話した内容をまとめると、


1.“アイテムボックス“の魔道具は後衛のクラウドが持つ


2.俺はバスタードソードの特徴を活かし、前衛と中衛の両方を担う


3.戦闘場所はダンジョン入り口左側の最前線で、まだ魔物が溢れていなかった場合はレイフ兄様達と共にダンジョン攻略へ向かう




といったところだ。




「…アラン、最前線には配属されないって言ってなかったか?」




「予定していたより高位の冒険者が集まらなかったんだよ…遠くに遠征してる奴らばっかりで…」




「はぁ…まあ仕方ないか。」




教授達は皆ステータスもスキルLvも高いので大丈夫だとは思うが、死の危険を感じる。


死ぬかもしれないと思うと動悸が激しくなり、胸が苦しい。




『前世では社畜から解放されるためにいつも死にたいと思ってたのにな…』




とにかく、絶対に死ぬわけにはいかない。


魔物征伐までの時間で厳しい訓練した。




5日後




「ついにこの日がやってきました。私が言えることはただ1つ。…生きて帰りましょう!」




「おおおおおおおおおお!!!!!!」




「では…魔物征伐開始!!!!」




そう叫ぶと、レイフ兄様は真っ先に魔の森へ走っていった。




「…行くぞ。」




「はい…」




俺達もそれに続いて魔の森へ潜っていった。




「…妙だな。」




「アラン、どうしたのであるか?」




「やけに静かすぎる。それに近くに魔物の気配を感じない。」




「あーし…これ知ってるかも…」




普段明るいルイザの表情が、若干陰ったように感じた。




「これは…スタンピードの前兆であるか…?」




「あーしもそう思う。」




「俺もだ。」




「スタンピード…」




魔物の集団暴走を指して使う言葉だ。


アランが『不死身のアラン』と呼ばれるようになった原因でもある。




「…アラン、どうする?」




「スタンピードには魔物の王がいる。守護騎士殿は王と1対1で戦うだろうから、俺らは予定通り周囲の雑魚を処理するぞ。」




「了解である。」




進軍を続けること数十分




「ダンジョンとその目の前に魔物を発見した!!総員、作戦通り行動せよ!!」




前線からレイフ兄様の声が聞こえた。


作戦通りということは、そこまで大量の魔物は溢れていないということだ。




「…よし、俺達は左翼に展開するぞ。」




「分かった。」




左翼に展開すると、ダンジョン前に溢れた魔物を視認できた。


数は4匹、1つ目巨人サイクロプスの門番だ。




体長は7mほどあり、自然治癒力が高い。


皮膚が分厚いため刃が通りにくいが、目を潰すと即死させられる。




「総員、進め!!」




レイフ兄様は指示と同時にダンジョンの方へ突っ込み、2体のサイクロプスを両断した。




『あれ…刃が通りにくいんじゃなかったか…?…まあ頼もしい限りだな。』




「守護騎士様に続けー!!!」




「おおおおおおおおお!!!!」




今の瞬殺で怖気づいていた兵士たちの士気が上がった。


これはジル兄様の作戦だろうか…?




「おい小僧、俺らもダンジョンに入るぞ。」




「ああ…!!」




まさかこのような形で異世界生活初のダンジョン攻略になるとは思わなかった。


初めてはゆったりまったり攻略する予定だったが…仕方ない。




俺達が動き出した時には既にサイクロプスを殲滅し終えていた。


レイフ兄様達の後を追うようにして、ダンジョンに入った。




「おぉ…中はこんな感じなのか…」




洞窟を予想していたが、実際は大理石のような材質で整備された綺麗な場所だった。




「おっ、キミはダンジョン初めて?」




「ああ。」




「あーしは何個も攻略したよ!!ダンジョンごとに特徴も違うし、なかなか楽しいよ!!」




「へぇ…!!」




完全制覇されているダンジョンは未だ存在しない。


ダンジョンは神によって創られた生物らしく、絶え間なく成長を続けているのだ。




「…おいお前ら、集中しろ。特に小僧、ダンジョンには罠もあるから気を付けろよ。」




「あ、ああ…すまない。」




アランが手を付いた壁から、カチッと音がした。




「あっ、やべ…」




手を付いた部分が凹んだ次の瞬間、すごい勢いで矢が飛んできた。


俺とアランは即座に両手剣を地面に刺して壁を作り、矢を防いだ。




「危なかったぁ…」




「アラン殿…むやみにダンジョンを触ってはいけないのであるよ…」




「そうだな…小僧もこうなるから気を付けろよ。」




「あ、ああ…」




百聞は一見に如かずとは、よく言ったものだとしみじみと感じた。

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