剣の世界のβテスター～異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる～

第25話 死闘

「お前は闘技場を使うのは初めてか？」

「ああ。それがどうした？」

「その様子だと知らねぇみてぇだな。なら俺様が教えてやろう！！」

これは油断させる罠か…？

それともただ単純に教えてくれるだけなのか…？

どちらか分からないので、警戒しながら話を聞いた。

「この闘技場は魔道具でできている！」

「ほう…それで？」

「闘技場内で死んでも、闘技場の外で目覚めるんだよ！！滅茶苦茶痛いがな！！」

「なるほど…それなら好都合だな。」

「あぁ⁉」

腕1本落とす予定だったが、変更だ。

殺しても死なないのなら、疑似的に殺してしまって構わないだろう。

「…殺す気で行くぞ。」

俺は大男に鋭い殺意を飛ばした。

怯えて身体が固まった刹那、右上段に剣を構えて両手剣Lv.6”ジェットスマッシュ”で距離を詰めた。

「甘いぜぇ！！！！」

大男はすぐさま体勢を整えて”ジェットスマッシュ”の軌道上に盾を出し、同時にカウンター狙いで片手棍を振りかざした。

『実戦経験を積んでるな…だが甘い！！』

俺は”ジェットスマッシュ”を強制終了し、両手剣Lv.1”スラッシュ”へスキルチェインした。

これと同時に右上段の構えから右下段の構えに変化させた。

「なっ…！！」

大男は構えの変化に対応しようと盾の位置をずらしたが、もう遅い。

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！！！！！！！」

盾の下の隙間から刃を通し、大男の左腕を斬り落とした。

人間を斬るのは初めてだが、この世界に順応し始めたからか何も感じなかった。

「いいぞーーー！！！もっとやれーーーーー！！！」

「負けるなダン！！！」

腕が落ちたことで降参する可能性を考慮し、1度距離を取った。

「くっ…！！まだだぁぁぁ！！！！」

「…っ！！」

大男は斬られた左腕を握り潰し、自らで止血を施した。

大抵はこのまま失血死するんだが…この大男、なかなかやるな。

「おいお前…！！名前はなんだ…？」

「アルフレッドだ。」

「1年主席の…！！そうか、道理で強いわけだ…！！」

『こいつ、相手のことも知らずに戦ってたのかよ。それはさておき…っ！！』

突如、背後から風切り音が聞こえた。

俺はすぐさま振り返り、飛んできたものを両手剣で防いだ。

「…おい大男、これはお前の差し金か？」

そう言って、防いだ矢を差し出した。

「あぁ⁉何のこと…っ！！おいトム！！余計な手出ししてんじゃねーよ！！！！」

「ひっ…！！す、すみませんボス！！！」

「俺様の部下が悪いことしたな…」

「気にするな。」

『どうやら大男は部下と違って良い人らしい。となると、先輩をいじめているのも部下の独断か…』

この大男は見た目と口調が怖いだけで、根は良い人なのかもしれない。

戦いが終わったら1度話をしてみよう。

「改めて…行くぞ！！」

「来い！！」

今度は左下段に構えて“ジェットスマッシュ“を行使した。

大男は盾を失ったので、おそらく片手棍で攻撃を相殺しようと右上段に構えた。

「はぁぁぁぁぁ！！」

STRが劣っているので、このままぶつかったら俺の方が押されてしまう。

俺が間合いを詰めて大男踏み込んだ瞬間、俺は右へ跳躍した。

「…っ！！」

大男の片手棍は空を切り、直撃した地面は割れて砕けた。

『1撃でも当たったら致命傷になりかねないな…だが俺の勝ちだ！！』

大振りしてガラ空きになった背中に向けて両手剣Lv.4“インパクト“を行使した。

その強力な1撃は鉄の装備を切り裂き、大男を両断した。

「そこまで！！勝者、アルフレッド！！」

「おおおおおおおお！！！！！」

「流石1年の主席！！！やるな！！」

「ぼ、僕の金がぁぁぁぁ！！！！」

『勝てたか…それにしてもこれは少しきついな。』

俺の目の前には上半身と下半身が分断された死体が転がっている。

死体を見るのは初めてなので、胃液が逆流してきた。

吐きそうになって悶えていると、大男の身体が光の粒子になった。

そしてその粒子が闘技場の外に出ると、集まって大男の身体を生成した。

「…っ⁉︎すごいな。」

大男はただ気絶しているだけのようだ。

起きるまでの間に俺は賭場へ行き、倍増した金貨をもらった。

「ん…」

「ボス…！！」

「俺様ぁ…負けたのか。」

「なかなか楽しかったぞ。」

「ははっ！俺様もだ！」

負けたというのに、潔い人だ。

「…それで、俺様に何を要求するんだ？」

「今後エレナ先輩がいじめられたら、あんたに守ってほしい。」

「エレナが…いじめを？」

「あんたの部下からな。」

「…っ！！お前ら…！！」

「ち、違うんすよボス！！ボスが最初に彼女をいじめてたから…」

「…そうなのか？」

「ち、違う！俺様はエレナと…その…」

大男が顔を赤くした。

『あぁ、なるほど。好きな子をいじめたくなっちゃうタイプか…部下はそれを真に受けて本気でいじめだした訳だ。』

「まあその…あんたも苦労してるんだな。…頑張れよ。」

「なっ…⁉︎う、うるせぇ！！」

好意を寄せているのなら、今後エレナ先輩を守ってくれるだろう。

俺は推しと結ばれることではなく、推しが幸せになることを願っている。

なので大男がエレナ先輩と結ばれても、エレナが幸せならそれで良い。

「ところで…トムってのはどいつだ？」

「は、はいぃ…」

「…次やったら無事じゃ済まないからな？」

「ひぃっ…！！」

今の俺は賭博で大儲けして気分がいいので、特に仕返しをせず寮に戻った。

それから俺が『先輩を血祭りにあげた主席』として周りから恐れられるようになったのはまた別のお話…