第4話 模造変身②
まずは魔法特区のこと――
魔法特区は、魔女の育成に尽力している国家戦略特区だ。指定された地域までの守護の役割を持ち、全国各地に配置されている。それぞれに鳥の名前が当てられており、ここには『アイビス』という名がついている。
魔力を持つ中高生の少女達が、各地の特区に集められる。そこで能力によって分けられ、それぞれの塔に所属している。
魔女として成長した後は、バグの駆除や災害救助、テロ対策などを受け持つ『特務機関』へ配属される。色々な役割を担っているが、最も稼働しているのは、バグの駆除である。
続いて魔女のこと――
一部の女性のみが保持している、自然を超越した力、『魔法』を使える者が魔女と呼ばれている。
一般人よりもあらゆる事柄で優遇されているのは、人類の敵であるバグに、唯一対抗できる存在だからだ。
魔女は英雄として尊敬され、昔の女英雄にちなんで『ジャンヌ』と呼ぶ人もいる。
バグを全て駆逐することは魔女の使命であり、大げさに言うと存在理由でもある。
綾音からすらすらと出てきた情報のおかげで、ここまでは容易に理解できた。これは、彼女が人に説明するために染み付いている、常識的なものらしい。
リーダーである彼女が、魔女として、さまざまな形で世の中に貢献していることが伝わってくる。
彼女には、他の人以上の知識があるらしい。ひょっとしたら、何か美倉聖に繋がるものもあるかもしれない。聖は、もう少し掘り下げてみることにした。
魔法特区、魔女と関連して、バグのことを知っておく必要がある。生きていく上での脅威だし、琥珀の発言も気になる。バグとは、魔女にとってどんな存在なのだろうか。
バグ――
バグは動物が突然変異し、魔力を有したものだと言われている。しかし、正しくは「意図的に変異させられた動物」である。遺伝子操作により生まれ、ホムンクルスまで生成されていた。
一部の魔女と同じように――
……きな臭い話だと思った。それでも聖は、好奇心のままに思考への探求を続ける。
――魔法は元々、男性に武力で劣らぬようにと研究された超能力だ。女性にナノマシンを組み込むことで実現し、その遺伝子は子どもにも引き継がれていく。
魔女は、もう一つの人類として、その存在を確立させた。
しかし、実験に使われた動物たちが、手違いで野に放たれてしまった。『魔道動物』と呼ばれたそれらは、いつしか『バグ』と呼ばれるようになり、現在も人と魔女の脅威となっている。
その過失が魔女にあったことから、バグの駆逐が魔女の使命になったようだ。
それには、こんな説がある。魔法の危険性により、魔女の存在が危ぶまれた時代。魔女が世の中に必要とされるために、わざと魔道動物を解放したというものだ。
現在でも、魔女を絶やさないように、様々な策が講じられている。
魔女の多くは、『ノルン』という研究所出身だ。魔女の自然な形での出産は少なく、それでも魔女を増やすために、体外受精によって出産するケースが多々ある。そうして生まれた魔女は、ノルンから児童養護施設へと渡り、そこで育てられる。
その中に、ゼロから生成された魔女が存在するらしい。にわかには信じられない話だ。
わざと脅威を造り出したり、人工生命体という神の領域を侵してまで、自らの存在価値を守ることは、果たして正義と言えるのだろうか。
仮に、バグが今も誰かの手で作られているとしたら、その手を止めさせなければならない。魔女の使命は、バグの駆逐なのだから。
もし、バグを全滅させることができたら、私たちはどうなるのだろう。それは、もしかしたら、仲間の首を絞めることになるのではないか――
聖はふと我に返る。危なかったかもしれない。知識を捜索し、深く入ろうとした結果、彼女の感情が表面化していた。
変身そのものに時間制限はないようだが、深層まで入ってしまうと、自分自身が変身していることを忘れてしまいそうになる。つまり、意識が乗っ取られそうになるのだ。
さっきのような模造変身の場合、あまり思考を捜索せずに過ごしていても、数分で心がおかしくなっていくのがわかる。
多分、限界で一〇分ほどだろう。おいそれと使える能力ではないのだ。
聖は、一度少女の姿に戻った。この姿と少年の姿、あともう一つの姿だけが、先ほどのような乗っ取られる感覚のない、日常的に使用できる姿だ。それがなぜだかはわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます