第47話 ピアス


私はピアスが好きで、実は片耳ひとつずつでは収まらない数の穴が開いている。

人によっては体に穴を開けるなんて有り得ない、痛い思いをしてまでファッションを楽しむ行為の意味が理解不能だと白い目で見たり反応はそれぞれだ。

外国では宗教的な意味合いが強かったりだとかで、日本よりも受け入れられやすい場合もある。

(というか実はピアスが生まれた意味からすると、使用用途はそっちの方が正しかったりするが)

今回はそんなピアスに魅入られた私の話。


私が初めてピアスを開けたのは、高校卒業後すぐだった。場所は最も一般的な左右の耳たぶに1つずつで、美容外科で開けてもらった。

動機は何となく大人っぽくて憧れてたから。

イヤリングよりも可愛いものが多いピアスが自分の耳元で輝くのを想像すると胸が高鳴る。

当時とても仲の良かった友達と2人で予約して、その後一緒に映画でも見に行こうということになった。お互いウキウキして楽しみだねなんて言ってたあの頃が懐かしい。

いよいよ予約当日の朝になって予想通りの事が起こり、友達と一緒に行く予定にして良かったと思った。そう、行きたくなくなった。怖くなってしまった。これが1人で予約していたなら迷わずキャンセルしていたと思うけど、他人に迷惑をかける訳にはいかないのでもう逃げられない。今日のお昼までには私の耳には穴が開く運命しか残されていないのだ。

意を決して病院まで赴いた。友達と途中で合流して駅から少し離れた細道の雑居ビルの中に入ってから出てくるまでものの10分。ついに私たちは2人揃って無事に開通の儀が完了した。

その後に予定通り映画を見てゲームセンターでプリクラを撮ったりクレーンゲームをしたり…普通に遊んだ。終始私達は興奮して、もう春とはいえまだまだ冷たい風が吹く度に「耳痛てぇ〜!」と2人で叫んで笑った。ピアスを開けたばかりの耳には3月の風は刺激が強かった。


その後お決まりだが腫れたり膿んだり色々経験した。痛い思いも散々したが、私のピアスへの奥深い興味はまだまだ尽きなかった。

時は少し経ち、それから2年後にもう1つ開けた。

当時私は自分に嫌気がさしていて、変わりたいと強く願いながら半分決意したような気持ちで3つめのピアスを開けた。強くなりたい…強くなろう。

この頃には私にとってピアスとは単なるアクセサリーではなかった。自分の体の一部のような、なんというかこれを含めて私であると思っている。

愛着やこだわりを感じて、ひとつひとつのピアスやピアスホールを愛している。それに痛みが伴うことから偏見的なものを感じることは少なくはない。

それでも私が私であるためには欠かせないものなのだ。だから誰になんと言われようと胸を張って好きだと言える。これだけは自信がある。

日本は特にそういった偏見や差別的な意見が多いようだが、だからなんだと思っている。

確かに多くのアクセサリーを付けることを控えるべき場面では弁えるべきだと思うが…


ピアスホールを安定させるには正しい知識を身につけ、適切な処置をしなければいけない。それも医者にただ従えばいいと言うわけでもなく、自分で何が正しいのか半分自分の体で実験しながら取捨選択していかなければならない。それにケアを少しでも怠ると皮膚が弱い人なんかはすぐに状態が悪くなってしまうのだ。

それに穴を開けるのだから当然痛いし、道具や処置費などにお金がかかる。

これらのことを総合して考えると、ピアスが空いている人は 『ホールの完成まで正しいケアを怠らない真面目な努力家で 目標に向かって必要経費の支払いができ、痛みに耐える忍耐力を持った人』であるということだ。これはこの世に生きる人に求められている…かどうかは知らないが、誰が決めたかも知らない模範的な一般人像ではないかと思う。

偏見をぶつけて遠ざけている人こそが、求められているはずの人物であるという事実はなんだか皮肉なものだな、と常々感じている。


何はともあれ私はどれだけ世間体が悪かろうと、歳を食って若くなくなってもピアスを辞めることは無い。こんな私でも自然に受け入れて、息をさせてくれる世界で生きていこうと思う。

すべては私らしさのために。

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