第四章 もっとかまって
新年はおっぱいで
今日は一月一日。巷では正月や元日と言われている日だ。
年越しは一人でテレビを観ながら過ごした。今までは家族と一緒に過ごしていたので、ちょっとだけ不思議な感じがした。
年を越したのを確認してから眠りにつき、スマホのアラームで目が覚めた。天気は快晴。初詣日和である。
外はまだまだ寒いので、厚着をしてから家を出た。
「おー! 湊くん来たー!」
待ち合わせ場所である高校の校門前に到着すると、既に三人が集まっていた。全員が首元にマフラーを巻いていて、寒さ対策はバッチリなようだ。
ひな先輩がこちらに向けて大きく手を振っているので、俺は頭を下げながら三人の元へと早足で駆け寄る。
「あけおめー」と小さく手を振りながら桜瀬が。
「おめでとう」と頭を下げる柊。
「湊くんあけおめー!」とひな先輩に抱き着かれた。
そんな三人に向かって、「あけましておめでとうございます」と頭を下げる。
抱き着いていたひな先輩は俺の体から離れると、ビシッと拳を突き上げて笑顔を浮かべた。
「それじゃあ全員揃ったし神社に向かうぞー! 一年生! わたしに着いて来い!」
誰よりも楽しそうなひな先輩はそう言うと、ご機嫌な様子で歩き出した。
そんな彼女に着いていく形で、一年生組も歩き出した。
今日から、新しい一年が始まるのだ。
☆
神社の鳥居を潜ると、様々な屋台が出ていた。それに加えて沢山の人が道を埋めつくしているので、雰囲気は祭りにも似ている。
「ここの神社ってこんなに人気があったんだ」
手袋をした手を擦りながら、隣を歩く桜瀬は辺りをキョロキョロと見回している。
目の前を歩くひな先輩と柊は、はぐれないようにと手を繋いでいる。
「初詣なんて初めて来たけど、こんなに賑わうんだな」
「え、今まで初詣行ったことないの?」
「そうだな、今日が初めてだ」
桜瀬は目を大きくさせて、仰々しく驚いている。
「瑠愛も今日が初めての初詣って言ってたけど……最近の子はそんなもんなのかなあ」
「最近の子って、桜瀬も俺と柊と同じ年だろ」
「ははは、そうでした。でも初詣行ったことないっていうのはびっくりだよ。アタシなんて家族と毎年のように行ってるもん」
「そうなのか。家族と仲良いんだな」
「まあねー」
みんなとの旅行を終えてから今日までの数日間、桜瀬と普通に会話が出来るだろうかと心配していたが、どうやら俺の考えすぎだったようだ。
桜瀬と顔を合わせながら話していると、前を歩いていた二人が足を止めてこちらを振り返った。
「ねえねえ! おしるこの屋台あるよ!」
ひな先輩が指をさした先にあったのは、おしるこを販売している屋台だった。
人の邪魔にならないように道の端に移動してから、四人で固まるようにして足を止めた。
「ほんとですね。じゃあみんなでおしるこ食べましょうか」
「食べよう食べよう!」
おしるこの屋台には人が並んでいるが、決して多い人数でもないので待ち時間は短いだろう。
「おしるこってなに」
柊がポツリと呟いたことで、三人の視線が彼女へと集まった。
「え、瑠愛、おしるこ食べたことないの?」
「うん、ない」
「どんなものなのかも分からない?」
「分からない」
桜瀬はまたも驚きで目を大きく見開いているが、柊はキョトンとした表情を浮かべている。
「それじゃあわたしが食べさせてあげようじゃないか! あ、もちろん湊くんと紬ちゃんにも奢ってあげる」
コートのポケットから赤色の折りたたみ財布を取り出して、ひな先輩は笑顔でそんなことを言った。
「いやいや、おしるこくらい自分で買いますよ」
そう言ってみるが、ひな先輩は首をブンブンと横に振った。
「いいんだよ! もうすぐで社会人になることだし学生に金を払わせるわけにはいかないのだ」
「ひな先輩もまだ学生ですよ?」
「もう卒業しちゃうからね! わたしに奢らせなさい」
口を尖らせてムキになるひな先輩。そんな彼女を見て、桜瀬は笑顔を浮かべたまま手を合わせた。
「それじゃあ先輩、ご馳走になります」
「うん! 任せとけ! 湊くんと瑠愛ちゃんもな!」
そこまで言うのなら、ひな先輩の言葉に甘えることにしよう。俺と柊が同時に頷くと、ひな先輩は満面の笑みを浮かべた。
「それじゃあおしるこ買ってくるね! あ、ナンパ対策として湊くん借りていってもいい?」
「いいですよ。連れてってください。その間にアタシと瑠愛は場所取りしてますんで」
なぜか桜瀬が許可を出すと、ひな先輩は俺の腕をガシリと掴んだ。
「じゃあそっちは頼んだよ! おしるこ買ったら電話するから!」
「了解でーす。お気を付けて」
桜瀬が笑顔のままに手を振ると、それを真似てか柊も控えめに手を振った。
彼女たちに見送られながら、俺とひな先輩は腕を組んだまま歩き出す。
「ひな先輩、ずっと腕組んでるつもりですか?」
「もちろんだよ! はぐれたら大変だしくっついてると温かいよ?」
「まあ、それもそうですね」
普段からスキンシップの激しいひな先輩なので、腕を組むくらいでは何とも思わなくなった。それにひな先輩と腕を組むのも嫌ではないので、特に断る理由なんてない。
だから腕を組んだまま、おしるこの屋台に向かっていく。
「ねえねえ、こうやって腕を組んでるとさ、恋人同士に見えるのかな」
目をキラキラとさせながら、ひな先輩は唐突にそんなことを言い出した。
「男女が腕を組んでれば見えるでしょうね」
「おおー! わたしもついにリア充の仲間入りか」
「いや、実際には付き合ってないのでリア充モドキですね」
「モドキ」
彼女は『モドキ』という言葉を何度も口の中で咀嚼すると、へにゃあと頬を緩めた。
「まあそれでもいいか〜」
気の抜けるような笑顔を浮かべる彼女は、組んでいる腕をギュッと引き寄せた。そうすることで彼女の胸に腕が押し当てられ、思わずドキリとさせられる。
何度スキンシップをされようが、ひな先輩の大きなおっぱいには慣れないなとしみじみ思いながら、腕を引かれるがままに屋台へと歩いて向かったのだった。
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