今まで保健室登校をしていましたが、今日から屋上登校を始めます。〜ハーレム生活を送りながら女の子を幸せにしちゃいます〜

桐山一茶

第一章 知らない人なのに嫌じゃない

保健室登校な日々

 俺こと『佐野湊(さのみなと)』の中学生時代は、沢山の友達に囲まれながら幕を閉じた。


 順風満帆とも思われた中学生時代だったが、高校受験では大ゴケをしてしまい、地元から離れた私立の越冬高校(えっとうこうこう)にしか受からなかった。留年をする気はなかったので、越冬高校の近くにあるマンションに引っ越して、一人暮らしをしながら通うことに決めた。


 第一志望も第二志望も落ちて気分は最悪だった。それでも一度きりの高校生活は楽しく過ごそうと思い、気持ちを切り替えて高校の入学式を終えた。


 ──しかし問題はここからだった。


 俺は生まれつき目が鋭く細く、髪質は固くツンツンとしているため、同級生から「あいつはヤンキーだ」「あいつとは関わらない方がいい」などと恐れられてしまい、高校に入学してからは誰一人として友達が出来なかった。

 中学生時代では沢山の友達に囲まれて過ごしていた俺は、ぼっち生活にどうしても慣れることが出来なかった。


 それでもせっかく入学することが出来た高校でもあるので、退学する選択肢を取りたくなかった俺は、クラスには顔を出さず保健室に登校する『保健室登校』を始めた。

 保健室登校は、午前中いっぱい保健室で自主学習をするだけで、卒業に必要な出席日数を稼ぐことができる。成績も中間テストと期末テストの点数で決まるので、デメリットがあるとすれば友達が出来ないことと自主学習が退屈なことくらいだ。


 保健室登校をしているうちに中間テストが終わり、夏休みまで終わってしまった。うちの高校は二学期制ではあるが、春休みはもちろんのこと夏休みと冬休みもあるのだ。テストも夏休み前と冬休み前の一回ずつなので、中学生活よりも楽に感じている。

 それもこれも、保健室登校が快適に思えて来たからだ。



 他の学生が朝の読書をしている時間、俺は木製の廊下を歩いて保健室に向かっていた。保健室登校をしている俺だけが、みんなと時間をずらして登校している。ちょっとした優越感を感じる時間だ。


 間もなくして保健室の前に到着した。白い扉には『保健室』と書かれた画用紙が貼ってある。

 ガラガラと音を立てながら引き戸となっている扉を開くと、毎日のように見ている保健室の風景が現れた。白いベッドが二床だけあり、その近くには体重計と身長計が並んでいる。


「あら、佐野くんおはよう」


 おっとりとしている女性の声と共に保健室の奥から現れたのは、ボブヘアーが良く似合う柔らかな顔をした、白衣を着用している保健室の先生だ。


「推川ちゃん、おはよう」


 保健室の先生こと推川恵(おしかわめぐみ)は、二十代前半という若さから、生徒達に『推川ちゃん』という愛称で呼ばれているらしい。その愛称で呼ばれていることを知ってから、俺も彼女のことを推川ちゃんと呼ぶようにしている。


「今日の具合は大丈夫?」


「大丈夫」


 しかも推川ちゃんは、タメ口で話しても怒らないのだ。そういう面も含めて、彼女は生徒達からの人気が高い。


「それはなにより。今日も自習頑張ろうね」


 笑顔を浮かべた推川ちゃんは、こちらに向けて拳を突き出した。彼女はこうして、グータッチを求めることがある。彼女のような美人な女性に笑顔を向けられると照れる。だから俺は照れを隠すようにして、視線を逸らしながら推川ちゃんの拳に自分の拳をちょんと軽く当てた。


「はい、頑張るっす」


 ひんやりとした拳の感触を残しながら、保健室にある自分用の机に座ろうとすると、推川ちゃんは何かを思い出したかのように手をポンと叩いてこちらを振り向いた。いざ座ろうとした時にそんな行動を取られたので、変な姿勢のまま彼女と目が合う。


「そうだ佐野くん、保健室で一人だと寂しいよね」


「まあ、そうですね?」


 突拍子もない質問に、ぎこちない返事をしてしまった。


「そうよね! そうだと思ったのよ」


 そんな煮え切らない返事にも、推川ちゃんは嬉しそうな顔をしながらこちらに近づいてくる。彼女との身長差は二十センチ程なので、自然と俺が推川ちゃんを見下ろす形となる。


「ええと、つまり?」


「もしかしたら湊くんと仲良く出来そうな友達を紹介出来るんだけど……お節介かな?」


 友達は欲しい。この調子で友達が出来ないまま高校生活が終わってしまうのかと思っていたので、そんな良い話があるのなら是非とも聞いてみたい。


「全然お節介じゃないっす。むしろありがたい」


 正直にそう言うと、推川ちゃんの顔がパーッと明るくなった。


「そういうことなら、佐野くんと同じようにクラスで授業を受けないで違う場所に登校している生徒が居るんだけど」


 俺と同じようにクラスで授業を受けていない生徒? そういう生徒は普通、保健室に登校するものではないのだろうか。


「ほうほう、その生徒と俺が仲良く出来そうだと」


「うーん、仲良く出来るかどうかは本人次第だけど、挨拶するだけしてみたらいいと思う!」


 なるほど。その生徒に関わるのも関わらないのも、自分の責任でということか。


「分かりました。それじゃあとりあえず行ってきてみます。どこに行けばその人に会えるんですか?」


 そう尋ねてみると、推川ちゃんは着用している白衣のポケットから銀色の鍵を取り出して、それを俺へと手渡した。そして彼女は笑顔のままに、天井を指さしてみせた。


「屋上に居ると思うよ。保健室登校ならぬ屋上登校をしている生徒たちなの」


「屋上登校……」


「そう、屋上登校。あ、その鍵は屋上の鍵ね」


 ニコリと笑っている彼女だが、俺はある問題に気が付いた。


「屋上って生徒は入っちゃダメなんですよね」


 学校の決まりで、生徒は屋上に立ち入ることが禁止されているのだ。しかし推川ちゃんは、こんなにも容易く生徒に屋上の鍵を手渡した。こんなことを他の先生が知ったら、推川ちゃんも怒られてしまうのではと思ったのだが。


「あ、それなら安心して。ちゃんと事情があって屋上に出入りするなら学校も認めてるから」


「そうなんですか?」


「そうそう。実際に今屋上に居る生徒も、ずっと屋上を使ってるよ」


「ずっとですか」


 それを聞けて安心出来た。どうやら怒られる心配はなさそうだ。


「まあ分かりました。それじゃあとりあえず行ってきますね」


「うん! 幸運を祈る」


 こちらに向けて親指を立てる推川ちゃんに、俺も親指を立ててから保健室を後にした。

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