第54話 決着
魔法陣が光り出したのだ。
今までの傾向から、これは全回復の合図。そして回復中は動けない。
ドラゴンはぴたりと止まり、腹と下
どういう契機で発動しているのかはわからないが、チャンスには違いない。
ドラゴンは後ろ脚で立ち上がり、首は真っ直ぐ上を向いていて、頭の位置はかなり高い。
視界をふさぐ煙を
『跳躍』一枚で肩の位置へ。
「つっ!」
降り立つと、素足の左足が鱗のするどい
危うく転げ落ちそうになったところを、首に剣を突き刺すことで何とか落下を免れた。
傷口から細く白い煙が立ち上った。
どうせなら俺の傷も治してくれりゃいいのに。
回復の魔法陣を使うが、足の位置を整えようとしたときに再び切ってしまった。
くそっ。
右足裏のグリップを頼りに立ち、剣を引き抜いた。
視線を空に向け、ドラゴンの横顔を
下顎からは今ももうもうと白煙が出ている。
滑らないように注意して、『跳躍』。
頭の上に着地した。
こんなにカンタンに行くなんて。
俺は剣を逆手に持って仁王立ちになり――。
これで終わりだっ!
――魔法陣の光る頭頂に真っ直ぐブッ刺した。
ずぶずずと肉と骨を貫通する感触が手に伝わる。
「おっぷ!」
血が噴き出すだろうと身構えていたら、出てきたのは大量の煙だった。
ぐぐぐっと剣が上に押し出されていく。
ちょ、なんだよこれ。
足の痛みも忘れて負けじと|渾身の力で押し返すも、ついにはにゅるんと剣は吐き出された。
勢いでどすんと尻もちをついてしまう。
後には何事もなかったように、刺す前と同じ、傷一つないつるりとした鱗が生まれていた。
嫌な予感がして、ざくりざくりと滅多刺しにしてみる。
視界一面が間欠泉のごとく噴き出した煙で埋まり、自分の手さえ見えなくなった。
そしてそれが晴れたあとには元通りの頭頂が。
刺したあと、のこぎりのようにごりごりと斬り進んでみたが、それでも広げた先から埋まってしまう。
ドラゴンは静かに息をしていて、全く効いているようには見えなかった。
はは。
バカな。
こんなバカなことがあってたまるか。
即死の攻撃ですら、致命傷ですら、回復してしまうなんて。
無敵かよ。
膨大な魔力を代償にした現象。
水の性質を持つドラゴンが炎を操り、あっと言う間に回復する仕組みが、俺がリズに施したものと似ているのはわかっていた。
魔力を吸い取り、それを変換する。
だが俺のとは規模が違う。
そう楽はさせてもらえないと。
やれやれと頭を軽くかく。
回復できない程の傷を負わせるしかない。
ならば、行きますか。
肩、膝へと降り立ち、一度地面に戻る。
背中を無防備にさらすドラゴンはまだ動かない。
『推進』『推進』『推進』『推進』『推進』
五枚がけだ。もう俺には制御はできない。
残りの魔法陣はあと一枚――。
『跳躍』
起動の瞬間に足を踏み出し、勢いを斜め前方へ。
魔法陣は記述された通りに働いて、俺を体が
両手で持った剣を横に引き、狙いを定める。
ドラゴンにぶつかる直前、剣を振るう。
切っ先が当たったのは、ドラゴンの首。
「うりゃぁぁぁぁぁぁっ!」
勢いのままに、俺は剣を横に振り切った。
ドラゴンの首が半分ほど
だが、白い煙が出てきた。
だめか――。
再度飛ぼうとして、もう魔法陣が残っていないことに気がついた。
魔法陣がなければ、できそこないの俺には何もできない。
体力も限界で、足元が
くそっ、こんなことなら、やっぱり一人で逃げておけばよかったな。
諦めかけたその時、ぐらっとドラゴンの頭が前に傾いた。
頭の重さでぶちぶちと切れ目が広がっていく。
そして、体がゆっくりと傾き……。
ズシンと大きな音がして、ドラゴンの巨体が地に倒れた。
ドラゴンの頭の上から魔法陣が消えた。
「あは……あはは……」
遅れて笑いがこみ上げてくる。
倒した。
ドラゴンを。
倒した――。
気が抜けて、俺はその場に倒れ込んだ。
空が青い。
さわさわと風が吹いて、ドラゴンのものなのか自分のものなのかわからない血を乾かしていく。
あー、疲れた。寝たい。
「……って、寝てる場合じゃないっ!」
痛む体にむち打って、ドラゴンの側へといく。
首が離れて魔法陣が消えたってことは、たぶんこの辺に……。
ドラゴンの腹に剣を突き刺す。
魔法陣がなくなり、自身で掛けていたのだろう魔術の強化もなくなったドラゴンの体は、簡単に切り裂くことができた。
血が吹き出てくるが構うものか。
お、あった。結構でかいな。
目当ての物は、ドラゴンの胃の中にあった。
見つけたのは、一抱えほどもある大きさの赤い球だ。
つるっとしていて、バカでかい
ドラゴンは直前まで食事をしていたはずなのだが、その痕跡がなくて本当に助かった。魔物の生態はよくわからない。
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