贖罪のブラックゴッドⅡ ~集え飽くなき願いの元に~
柊 春華
序章:叛逆の狼煙《アプライジング》
叛逆の狼煙
空はこんなにも青いというのに、目の前に広がる光景はくすんでいた。
自由もなく、明日への希望もなく、ただ消耗品のように使い潰される者たち。その瞳は絶望と
彼らは奪われ続けてきた者たちだ。虐げられてきた者たちだ。
転生体というだけで。神を宿すというだけで。
たったそれだけの理由で恐れられて――恐怖されたが故に排斥されてきた者たちだ。
世界はこんなにも非情で冷徹だ。奪うことに何の
許されることではない。許していいことではない。
断じて許容することなどできない。
黒神輝は、手に携えた機械鎌の柄を地面に打つ。
――コォォォン。
小気味の良い音が響き、
「全ての者に問う! 自由を望むか!?」
自由。
その言葉にほとんどの者が反応を示した。それは彼らが
「俺はこれから王城へと向かう! 捕らわれた友人を助け出し――そして王を討つために!」
一つの国家に対する叛逆の宣言に群衆の間に声にならない驚愕が広がった。
「俺が王を討つのはこの腐敗した都市を終わらせるためだ! 都市を腐らせる元凶を排除し、誰も脅かされることのない場所へとこの都市を生まれ変わらせる! そこにお前たちは居場所を望むか!?」
絶望に凍え切った心に熱を注ぐ、たった一人の小さな熱量。
「恐れられ、忌み嫌われ、
人間を襲う神は確かに存在する。復讐のために神の力を振るう転生体も少なくない。
だがそれは全体の一部でしかない。その一部のせいで転生体と呼ばれる者たちは不幸を押しつけられる。
「奪われ続けたのは転生体が化け物だからか? 断じて否だ。転生体にも心はある。喜び、怒り、泣き、笑うことができる。傷つけば痛みを感じ、赤い血潮を流す。それは人間の証に他ならない。ならばなぜ奪われ続けるのか。それは転生体である自分自身が、自らを人間だと認めていないからだ。虐げられることに慣れ、拒絶されることに慣れ、奪われることに慣れてしまったためだ」
あるいは生を受けた時からそうだったのかもしれない。転生体はそれに不満を抱きながら、疑問を持つことはなかった。転生体だから迫害されるのだと当たり前のように受け入れてしまい、それが社会の常、世界のルールだと諦めていた。
「それでいいのか? 不条理に慣れたまま、理不尽に奪われたまま、
いいはずがない。集まった者たちの拳に力が込められる。輝の言葉に呼応し、冷えた心が熱を帯び始める。
怒りの炎は静かに燃え上がり、しかし黒く染まることはなく。
「かつて神々は争った。千の時を数えても消えない傷をこの大地に残し、滅びた神々は人間に宿り、転生体を生み出した。だが忘れるな。その争いは人間を巡る争いであったことを。人間を憎み滅ぼそうとした神々だけでなく、人間を慈しみ守ろうとする神々も確かに存在することを。この絶望の日々にいてなお、内に宿す神に支えられた者もいるはずだ」
「なら神と手を取り合おう。そして――自由を得よう」
どうやって? それができないから自分たちは此処にいる。
疑問への答えを先回りするように。
「
蒼の魔法陣が輝く。回転するそれは波動となり、周囲一帯に拡散する。
そして次の瞬間、彼らに装着されていた首輪が地面に落ちた。連鎖するように次々と。その現象は広がっていく。
誰もが
「さあっ、皆はこれで自由となった! 望んだ自由だ!」
魔術の負荷に額を濡らしながら、それでも輝は声を上げる。
「俺は王を討つために王城へと向かう! いまもなお虐げられる者を救うために!」
絶望の
自分たちを救った青年の姿に希望を
暗闇に
黒神輝の元へ集う。
「ついてきてくれるなら心強い! だがどうか忘れないでほしい! これは復讐ではないことを! 弱者を救い、神と手を取り合うために力を振るうのだと! 怒りのままに力を振るうのであれば、それはあの王と同じだ!」
機械鎌をもう一度、地面に打つ。響く音はそのまま黒神輝の意志を
「さあ戦友たちよ! 神を宿し、神の力を振るう者たちよ! ここから始めるぞ! 目指す場所は人間と神の共存。その第一歩として、いまも虐げられている同胞たちを救い出し、転生体の居場所を創ろう!」
呼応するように青白い輝きが放たれた。
全身を覆う刻印。
顕現した武具はそのいずれもが
目にすれば誰もが恐れ
しかしてそれは
奪われ続けた者たちの怒りが牙を
その
「――奪われたモノを取り返しに行くぞ!」
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