山岳蒸気都市と終末運送業 著:麻根重次

 蒸気と飛行船の世界で、彼らが運ぶのはただの荷物か、それとも――。


 さて、いつもの前座から。

 特に聞かれることがないので、基本的に書くことはないが、実はこの感想欄はつけたしのシステムで書かれている。

 秘伝のタレというわけだ。

 

 感想というのはすべてを読んでから書く方の方が多いと思うが(カクヨムのレビューなどもそのような形式)、私は一話読んで少し、また一話読んで少し、といった感じのいわゆる応援コメントみたいな感じで作品の感想を書く。


 「お前は何が言いたいんだ?」と思ったことだろう。

 簡単な話だ。

 いつも書いている子の前座の部分はプロローグを読んで書き始めている箇所というわけだ。

 

 そして、本作のプロローグは非常に印象的だった。

 基本的にかなり短い文字数で構成される0話――プロローグが本作では四千文字という本編に負けず劣らずの分量で記されている。

 

 こいつは相当珍しい。

 PV推移を確認したことがある人なら分かると思うが、実は一定数プロローグを読まないという方がいる。

 百文字くらいのちょっとした文章なら、別に読み飛ばしてもらっても大して問題はない。けれど、四千文字となると話は別だ。


 読み飛ばされると話が意味が分からなくなる可能性があるし、そもそも話についていけなくなる可能性すらある。

 まあ、でも『一話完結、どこから読んでも大丈夫』らしいので(一話というより一章といったほうがイメージ的には正しい)そこらへんはしっかりしているのだろう。


 と、一話を読み切るまでは思っていたが、きっとこれは普通に最初から読んだ方が楽しめるやつだ。

 とりあえず、一話までのを感想を、との心持で書いているため、二話のさわりまでしか読んでいないが、登場するキャラクターが一致している時点で、一話をわざわざ読み飛ばさせる理由はないのかな、と感じた。


 

 さて、長々と書いてきたがそろそろ本題に入ろう。

 本作はSF。

 正直メインストリームとは言い難いカテゴリー。

 カクヨムにてもっとも有名なSFは『横浜駅SF』(これがSFとしてのメインストリームかは知らないが)だと思っている。


 しかし、この横浜駅SFであっても累計ランキングでは歯が立たない。

 もっと分かりやすい俺つえーがランキングを独占しているし、たくさんの読者に見られている。

 まあ、考えれば当然。

 

 純粋にSFは話が難しい。 

 絵があるマンガならまだしも小説でその難しい概念を理解させるのは困難なことだ。

 読者も難しいし、筆者も難しい。

 いわゆるLOSE-LOSEである。


 だが、根強い人気は確かに存在し名作と言われる作品にはSFが多いようなイメージもある。

 ハイリスクハイリターンみたいな感じだろうか。

 自身オリジナルの世界観を利用する以上、それを理解させる苦労はあるが、きちんとはまれば圧倒的なオリジナリティと爆発力を持つ。

 内容云々も相当大事だが、カギを握るのは世界設定といっても過言ではないかもしれない。



 と、ここまで言えば次に言及するのは本作の世界設定である、というのは勘の良い方なら分かったはずだ。


 変にこちらが解釈してもあれなのであらすじからそのまま引用させていただくと


『平地を毒の霧「ハロス」が覆い尽くし、人類は山の上へと生活の拠点を移した』 


 という設定の世界らしい。

 これによって作品の根幹をなす舞台は自動的に飛行船となった。

 毒霧『ハロス』を活かすために主人公は『運送業』に携わる。これはうまい。

 設定だけをつくりそれを全く生かさないという作品も多い中、本作ではきちんと設定を活かしたストーリー展開になっている。

 

 残念ながら、私はSFに明るくないため、この設定が良いかどうかというのは判断がつかない。

 けれど、設定の使い方はうまかったように思う。

  


 さて、内容に入ろう。

 今回言及するのは一話。

 役割としてはプロローグだろうか。

 一話の最終話にて伏線めいた『記憶喪失』が出てきたし、全体的に世界観説明の節が強かったような気がする。

 これは先ほど挙げた文字としての世界観説明ではなく、キャラクターが直にその世界で動くことによって読者の理解を促すタイプの世界観説明。

 

 例えば『人を殺すノートがある』というのがただの文字説明。それを実際に一度使ってみてその性質と、キャラクターの変化をきちんと描写するのが後者の説明。 

 一話は後者の役割を果たすための場所だと私は感じた。


 しかし、説明のためのパートであっても展開を雑にはしない。

 信号弾を使った戦闘や、その後の掛け合いなどの細かな場所も読みやすく面白いものに仕上がっていた。

 本作の良さはこれからもっと深まってくるのだろうが、一話ということでここらへんで筆をおくとしよう。

 それでは。


 作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16816927860646896389

 作者URL:https://kakuyomu.jp/users/Habard

 

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