ドラゴンと同居してラブラブなサンシャイン生活!!

龍鳥

プロローグ 両翼がないドラゴンは女の子

 

 ドラゴンとは、ヨーロッパから広まった伝承や神話における伝説の生物の事である。トカゲのような体付きをして、蛇のように首が長く、そして両翼を持つ実在したものとされている。古代ギリシアから聖書、またはローマまで、その言い伝えが知られている。

 

 でも、貴方は知らない。ドラゴンの本当の姿を。


 これは僕が短いながらも体験した、ドラゴンに恋をした話である。



 「死んでやるぞ今日僕は!!」



 僕の名前は川岸一かわぎしはじめ。転職を三回も失敗した、いわゆる敗北者であり、ニートである。僕の話を聞いててつまらないかもしれないが、まあ席を立たずに聞いてくれ。


 3か月前、僕は工場で勤務していた平社員だったが、ある時に商品の運搬作業中に誤って物と落としてしまい、小指を切断。たかが指の一本、なのかもしれないが、これが凄く痛かった。緊急手術をして、即入院。で、会社からは労災と言う保険が出るのだが…まあ、労災というのは会社から出たらマイナスのイメージが世間に付き纏ういうわけでして…当然と社長はお怒りになりまして…



 『お前が怪我したのは、精神病と関係あるんじゃないのか!!』



 と、社長に言われて大喧嘩に発展。そりゃ、僕は鬱になりやすくて気分が落ち込むことがあるけど、それと仕事の関係は薄いだろ、と今でも社長の言葉に腸が煮えくり返るが、勢いで辞めてしまった現在となっては、関係のない事だ。


 それから転職活動を始めて、失業保険を貰いながら生活を食いつないでいるが、さあいざ新天地へとなろうとしたら。



 一回目の転職、小さい部品を作る工場なのに、手先が不器用なので細かな作業ができずに4日で退職。


 二回目、最初と同じ系統の工場に入社するが、僕を教育してくれる先輩社員からパワハラに合い、1日で退職。


 そして今日の三回目、電気設備の仕事では休日出勤4日まで、月70時間の残業を有していたブラック企業だったことがわかり、1週間で退職。



 このように、悲惨な人生である。まさか、1年以内に4回も会社を辞めることになるなんて。僕の今年の運勢は、きっと大凶だろう。厄年はもう過ぎたのになあ。

 とまあ、これが僕の簡単な自己紹介です。申し上げた通り、僕は鬱になりやすい傾向があるので、将来へのお先真っ暗道中の沼に嵌っているわけでして…


 これから、自殺しようと思い立ったわけです。



 「暗くて何も見えないなあ、本当に富士の樹海って存在したんだ」



 正確には、青木ヶ原という富士山の麓にある森のことである。この辺りは、自殺の名所として定番スポットであり、俗説では方位磁石が効かないとか、生きては戻ってこれないなどの、悪い噂が絶えない。

 おまけに、昼でも薄暗くて樹木が多くて一度、道に外れると戻ってこれるのは難しいとされている。まるで僕の人生みたいだ。



 「ここで首を吊って死ぬのも、悪くないかなぁ。いや、黙って飢え死にするのも」



 そんな恐ろしい場所に、僕は真夜中の豪雨の最中、傘もささずに一人で歩いているのだ。無論、死ぬためなのだから荷物など持ち合わせてないし、故郷にいる家族にも知ったことじゃない。ああ、家族のことを考えると罪悪感が押し寄せてくる。

 まあ、こんな樹海の中で、ずぶ濡れになって歩くと、どうてもよくなるけどね。靴はグチョグチョ、服装であるスーツとワイシャツは濡れて重い。心なしか、気分も重い。



 「いよいよ僕は死ぬのか…」



 何を言っているんだ自分。死ぬために、生きて帰れない森へと入ったのではないか。誰にも見つけることなく、1人で死ぬことが僕の使命じゃないのか。今更、戻れないぞ僕。


 

 「ここだ…」



 樹木が無数の手のように、天空高く昇っている先に、小さな隙間ができている先に雨空が見える。そこに満月があれば、幻想的な風景が広がるが、辺りは闇の中。そして地上の中央には、ここの主と強調するように、ドッシリと鎮座している巨大な石がある。

 僕は一目見て、この場所に惚れた。ここで死ねば、完璧な画になると。



 「よし、包丁で死ねるかどうか知らないけど、やるしかない」



 スーツの懐に仕舞っておいた、携帯用の包丁を一本取り出す。カバーを取り外すと、雨粒を弾く光沢性がキラキラとして、凶暴性が伝わってくる。これを自分の腹の中に入れて、捌いていくんだと考えると、失血死を選んだのは案外、最も痛く死なない選択かもしれない。


 

 「本当に僕は死ぬんだ…」



 急に怖気づいてどうする!!ああほら!!家族との記憶がフラッシュバックしてるじゃないか!!ええい消え失せろ!!



 「よし…よし!!」



 呼吸を整えろ。1,2,3,…すうーはぁー…おおしっ!!



 「僕の人生!!お疲れまでしたああ!!」



 どおおおおおん!!



 それは、前触れもなくやってきた。僕が主と呼んでいた石は、空から降ってきた巨大な物体によって粉々に砕かれ、その勢いで僕も吹っ飛ばされた。

 僕は一瞬、空を飛んだ。雨粒も大きな振動と共に弾かれ、樹木の枝から滴り落ちる落水も綺麗に剥がれ飛び、全ての森が揺れたのだ。2回転、3回転と僕は空中で舞い落ちり、胡坐をかいたまま元の場所から数メートルと着地したのだ。


 何が起こった…?状況が飲み込めない。後ろを振り向くと、土埃が酷くて何も見えない。そもそも、暗闇だから何も見えるはずが…あれ?いつの間にか月明かりが。


 巨影、その言葉がぴったり当てはまる。辺り一面の煙が、巨大な物体が動くと同時に晴れていく。月面の光によって樹木を照らす光が膨大な数となり、空はいつの間にかポッカリと穴が開いていた。


 そして、その物体が姿を現した。



 「ぐおおおおおおっ!!」



 あれは何だ?特撮でしか見たことない、テレビ上の画面では表現しきれない約30メートルの巨体は、ゆっくりと体を起こして、天に向かって吠えたのだ。眠れる野鳥は飛び立ち、土に潜んでいた虫たちは一斉に蠢き始める。


 僕はというと、あまりの衝撃な姿に立ち眩みを起こしていた。



 両翼があったとされる、背中から大量の血が流れている。


 太い足には、今にも僕が踏み潰すような圧倒的な威圧感と。


 長くて白い牙は、吐血しながらも人間を一口できそうな大きな口。


 黒い鱗はダイヤモンドのように輝く、まさに動く彫刻。



「ど、ドラゴン…」



 そう、これが僕ととのファーストコンタクトだった。なんで女の子とわかったか?

 …だってそりゃあね、ドラゴンになった姿は一瞬だったもん。その後はもう、怪しい新薬を飲まされたかの如く、身体がみるみる縮んでいき。



 裸の人間が横たわっていたんだもん。



 「おおおいい!!なんで!!」



 僕は無性にも、彼女にツッコミを入れてしまった。ドラゴンが人間の姿になるなんて、聞いたことないぞ。あれだけ大きな叫び声をあげたんだから、何かしでかすかと思いきや、倒れるなんて。



 「…よし。助けるか!!」



 僕はこの時、自分の行動と発言が全く嚙み合ってないことに気付いてない。どんな試練も怖くないと思うのは、アドレナリンが脳内に分泌しているせいだ。



 「君も自殺しにきたのだろう!!なら僕もそうだ!!けどけど!!」



 そうだ、僕は自殺しに来たんだ。今更、自嘲はするが僕が生きている世界に別れを告げに来たんだ。でも、目の前にドラゴンが落ちてきた。それも両翼を失った傷だらけの身体をした、小柄な女の子だ。

 そして、これは僕の推測だが、彼女も何か事情があって、ここに落ちてきたのだろう。だって…だって…



 「そんなに悲しそうに大声を泣いてるのは、誰かに助けを求めたいのだろう!!なら!!」



 彼女は、吠えていたのではなく、助けを求めていた。僕の本能がそう告げている。僕はこういう言葉を作った。


 ”自殺しそうな者同士は、お互いを助け合いと”


 背中から流れる血を、ワイシャツを脱いで布代わりにして止血する。息が荒い、というかドラゴンを治療した方法なんてあるのか?あるはずがない。



 「君を助ける!!」



 何故、こんな言葉を出してるのか?僕自身が彼女を助けたい気持ちが前面に押し出してるからなのか?いや、それよりも。



 「傷ついている女の子がいるのに、自殺する暇なんてねえんだよ!!」



 あれ?僕ってこういうキャラだっけ?疑問点が多く浮かぶが、これだけハッキリしていることは。

 この出会いが、僕にとって天命であるという事だ。



 「うおおおおおおっ!!」



 帰り道が分からない森の中を、僕は彼女を背負いながら全力疾走する。目指すは病院、ただ一つ。僕は関ヶ原合戦で、敵陣に突っ込んでいる島津軍だ。誰がなんであろうと、邪魔する者はどいてもらおうか!!

 樹木が避けているような感じがする。それに、人間の走る速度は平均時速36km/hのはずなのに、今の僕は風のようだ。雨は止み、地面は湿って滑りやすいのに、足取りが釘で打ち付けてるように、力強い。



 「ここから脱出して、君を病院に連れて行く!!」



 僕の名前は川岸一。さっきまで自殺しそうだった男だ。僕は1人の女の子を救う為、青木ヶ原の樹海を走っている。





***




 「あなたのことが好きです!!」


 「えっ、えぇ…」



 病院に着いた僕らは一夜明け、眠っていた彼女が目覚めた第一声が、僕への告白だった。




***


あとがき


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