第一幕/出立 [日常]第3話

三人は職員室に辿り着き、プリントを担当の小牧教諭の所まで運びえた。小牧教諭から労いと感謝の言葉を‐マコトとユウヤは進路調査票の件で絞られたが‐貰いつつ、職員室を出ようとした時に、また別の教諭から三人のクラスへHRで配るプリント運んで欲しいと頼まれる。マコトとスズネは多少うんざりした様子を見せたが、ユウヤは平気な顔で請け負った。

「まぁ、自分のクラスだけだし。どうせ戻らなきゃならないしさ。」

三人は再びプリントを‐一クラス分なので行きよりは軽いが‐持ちつつ、自分達のクラスへと向かった。途中会話を挟みつつも何事もなく自分達のクラスへ着いたが、他の生徒は帰ったか部活に行ったのか、教室には誰も居なかった。教室の時計を見たら結構な時間が過ぎていることに驚き、三人はHRで使用するプリントは教卓の上へ急いで置いた。その後、スズネは二人に感謝を述べ、帰り支度を早々に終わらせて「また明日」と友人が待っているという図書室へ急いで向かった。マコトとユウヤも自分の鞄を持ち、早歩きで昇降口へ向かう。昇降口が見えてきた頃、自分達の靴箱の前に一人の少女が立っていることに気づく。制服についている胸のリボンの色などから下級生なのは分かった。少女は、二人に気づいたら、小走りに近づいてきた。少女は息を切らせながら、二人・・・ユウヤの前で止まると、

「これ、時間があればで良いんで、読んでくださいっ!」

ユウヤに一通の手紙を手渡してきた。ユウヤが手紙を受け取ったのを確認すると、少女はその場から急いで走り去った。

「モテるね。」

マコトはニヤつきながら、ユウヤに言った。

 ユウヤは、普段は少し気だるそうにしているが、人当たりがよく、男女分け隔てなく接する事ができ、他者から何か頼まれても嫌な顔一つせず請け負う。だからか、学校の教諭や他の生徒、バイトの同僚や上司からの信頼も厚く、人気もある。さらに容姿も、背も高く体格が男らしくがっちりして顔立ちも整っていることから、時々マコトは「モデルになれるのでは?」と思っていた。実際、さっきの様に度々告白されたり、ラブレターを貰っていたりしている。

「茶化すなよ。しかし、今時に手渡しとか珍しい。相当勇気がいるんだろうな・・・って時間!バイトに遅れる!」

ユウヤは上靴から外靴に急いで履き替えると、「またな!」とマコトに向かって言い、校門へ走っていった。マコトも軽い返事をした後に外靴に履き替える。校庭でサッカー部が練習試合を行っているのが見える。マコトは邪魔にならないように、校門へ向かう。その頭の中では今日一日で起きた出来事を反芻していた。HR、授業の内容、昼食、放課後。中でも自分にとって大きな出来事である、〝海王星の未確認物体〟〝くじら〟を思い出しただけで、すぐに頭の中がそれ一色となった。

「〝くじら〟は実在する。」

そのことを考えただけで、マコトは飛び跳ねたい気持ちになった。幼少期に「宇宙のくじら」を読んで、マコトはその世界観に圧倒された。絵の具で綺麗に描かれた他の星々の友だちに、宇宙を泳ぐ大きなくじら。何度も何度も繰り返し読んで、いつの間にかくじらに対して憧れを抱くようになった。様々な星へ泳ぎ、自分の見知らぬ世界へ案内してくれるくじら。小学生高学年の頃、作者のことを調べたマコトは〝くじら〟が本当にいるのではないか?と思い始めた。作者が太陽系外で本当に〝くじら〟を見たのではないかと。そして今日まで、マコトは[UNSDB]他、各国の宇宙関連機関が発表する〝くじら〟に関連するような情報などを集めていた。そして、ついに今日、観測衛星がその姿を捉えたのだ。一瞬、放課後にスズネが言っていたことが頭に過った。

「今回のニュースとか興味あるんだったら、宇宙関連の仕事や大学とか向いてないかなーって。」

「そうかな~?まだまだ遅くはないと思うんだけど・・・」

そうだ、その通りだ。その存在を証明したいのであれば、然るべき学校、訓練、機関に入って証明すべきだ。種子島のシャトルに海王星付近へ行く便なんて流石にない。だが、僕は・・・。いや、違う。今、なんだ。今、〝くじら〟が直ぐそこまで来ているんだ。どうやって、そこまで行く?どうやって、海王星付近まで行ける?どうやって、どうやって、どうやって・・・。


「僕は〝くじら〟に会いたいだけなんだ。」


ふと、思い出したように目の前を見ると、自分の家があった。考えていたら、いつの間にか着いていたらしい。

マコトは考えていたことを振り払うかのように、首を横に振り、玄関のドアノブに手をかけた。

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