少女達は生きる

天野詩

第1話

「ねぇ絢、今日うちに来ない?」


 まだ日の落ちる気配のない、快晴の日の放課後。誘ってきたのは、高校に入ってから出会った友達、さかい 春華はるかであった。一緒に雑誌のモデルをしてと頼まれたことをきっかけに、仲良くなった。もう一年ちょっとの付き合いになるだろうか。


「うん、行く」


 予定もなく、帰っても対してやることがないので、適当に返事をする。春華の家には、数回行った程度だ。分かっていることは、両親が共働きで遅くまで帰ってこないことと、今年、中学二年生になる妹がいる、とも聞いたことがある。


 外へ出ると、強い日差しと、熱風を感じる。一昨日7月に入ったばかりだが、快晴なのが原因か、もう真夏の暑さだ。春華の家には、歩いて着く距離だが、途中のコンビニでアイスを買って行くことにした。


「溶ける〜」


 コンビニから出るや否や、春華が言う。それはアイスに対しての発言なのか、それとも『暑さで死んでしまいそう』みたいなニュアンスの発言なのか、一瞬考えたが、独り言だろうし、返さなくてもいいという結論に至り、スルーする。


 コンビニから数分も歩かないうちに、春華の家に着く。「お邪魔します」「どうぞー」という、やり取りする必要があるのかわからない言葉を適当に並べ、上がらせて貰う。


「トイレ借りるね」


「あー、今一回のトイレ電球切れてるから、二階の使って」


 階段上って手前のとこだから、アイス溶けないうちに戻って来なねと、春華の声が響く。


 上って、気付く。トイレの一つ奥の、『深雪』と書かれた、100円ショップに売ってそうなプレートが掛けられた部屋が、少し開いていることに。


 なんとなく、気になった。


 妹が居ることは、聞いていた。後から考えると、その部屋は妹の部屋ではない可能性もあった訳だが、けれど、その時私は、直感的に春華の妹の名前だろうと考え、興味を持った。


 トイレの場所を通り過ぎ、その扉を開く。


 一番最初に感じたのは、強い熱気だった。そして、部屋の中には、一人の少女がいた。それも、床に仰向けに倒れた状態で――。

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