第10話 10年後、君の朝で。
ピッピッピッピッ……
電子的な音が聞こえるこの音と共に生活するのはもうそろそろ10年経つ。そして私の時間も後、数ヶ月という会話も医師が話していることだけが聞こえた。
遥斗もその後は知らない。あの後もう体がすぐ動かなくなってしまったからだ。
ガラッ、ドアが開く音がした。家族ももう最近は月に1回来るか来ないかくらいだ。おそらくヤブ医者(主治医)だろう。
そんな諦めさえも吹き飛ばされるのは予測していなかった。
「こんにちは。藍。主治医となりました、結城遥斗です。」
「…………。」
まだ動く目で確認する。見間違えることなんてないだろう。10年前と変わらないあの無邪気な笑顔を変わらず浮かべていた。若干泣きそうな笑顔にはなっていたが。
「ちなみにな、俺ALSの専門医なんだ。それでな治療法があるんだ。」
きらきらした目で訴えかけられる。曇りのない純粋な目だった。その手で今までもたくさんの人々を救ってきたんだろう。
「その方法は世界初なんだ。藍、君に受けてもらいたい。俺の手で救いたいんだ。言っただろう?俺が君を救うって。」
私は残る力で瞼を閉じて、開けた。伝わるだろうか。もちろんだということが。
その途端、遥斗は泣いた。笑いながら泣いた。
「ありがとう…ありがとう、藍。」
外は丁度、夕焼けが終わったのだろうか。部屋の中が濃い藍色に染まっていく。その色彩はまるで"救う"と言ってくれた日と同じようだった。
オペは2日後、成功した。
私は晴れて自由になったのだ。最愛の人の手で。
さあ、10年間何もできない暗闇のような時間の中で、淡くなってしまった思い出のなかで、唯一つ忘れなかった思いを今。伝えようではないか。
君へ、
ありがとう。大好き。愛してる。
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