第8話 そして月は昇る。
ぴったり6時。後夜祭まではあと少し時間があるけど人混みは好きじゃない。この時間は生徒も教室で後夜祭の準備をしているので生徒は校庭になんか数人しか居ない。
「おーい!藍来たよー。」
「遅い。」
「ごめんよぉ!!」
「嘘だって。」
こんな冗談を言い合うなんて転校しても無いと思っていた。
「じゃあ、とりあえず散歩する?」
「いや、私一回屋上に行ってみたい。」
遥斗は目をまん丸にした。そして弾けるような笑顔を光らせてこう言ってくれた。
「楽しそう。行こう!」
先生たちの目を潜り抜けながら行動するなんて何か冒険をしている様な気分だった。
幸い屋上には鍵が掛かっていなくてすんなり侵入することができた。ぎぎぎと錆びかけた鉄の扉が開くと、田舎でしか見えない満点の星空が月と共演していた。
「すっごい。こういうのは初めて見た。」
感動で息が漏れる。
「綺麗だよな。何回見ても。」
「これはすごい。」
そんなことをしている内にクラシックな音楽が下から聞こえてきた。
「俺はさ、昔の夢は捨てたんだ。」
さらりとそんな言葉を遥斗が吐いた。無性に腹が立ってしまった。限られた時間の中でそんなことはしていけないものだと思っているからだ。
「…夢を捨てるって何?」
「俺はバレー選手になりたかった。でも人を救うことがどんなに綺麗なことか分かったんだ。」
人を救うこと。遥斗のお父さんが昔好き好んで私に何回も聞かせてくれた言葉だった。
「俺は人を死なせない医者になりたいんだ。」
囁く様な声よりも小さく遥斗は言った。
「…俺は医師になりたいんだ。」
その言葉は声こそ小さかった。だけど今みで聴いたことのある言葉よりもずっと大きな声だった。
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