第2話 天才と時間
自己紹介してホームルーム。私に話しかける人は居なかった。私は安堵した。邪魔されずいつも通りを送れる。周りは「あの人全国区のセッターらしいよ。」とか「小さき天才セッターなんだって。」とかうるさいが、こんなに嬉しいことは無いのだ。
「ねえねえ!藍だよね?女バレはいるんでしょ?」
は?うるさいの来たんだけど。顔を見上げるとざっと180くらいある顔の整ってる系の男子が私の机の前に居た。
「別に。そうだけど。」
関わるとめんどくさいタイプだと本能が感じた。絶対トラブルメーカー系の人種だと。
「やっぱり?俺、男バレの結城遥斗!!エース!」
「へえ。で?何か用?」
遥斗がガビーン!!と効果音が出そうな顔をした。その後すぐさっきのにぱっという顔に戻った。やっぱり変人っぽい奴だな、心底そう思った。
「そうそう!!女バレの体育館って男バレの体育館の隣だから案内しようと思って。」
「もう確認済みだけど?入部届もシューズも持ってきたけど?」
「準備良すぎるよ!」
「遥斗だっけ。遥斗は何で私につるんでくるの?」
さっきまでうるさかった遥斗が黙った。とどめを刺したか?と思った。
「覚えて無いかー!!!」
覚えてる?いや遥斗とは初対面だ。覚えてるも何も無い。会ってるとしても外でも無いし、体育館でも無いし、学校だって違う訳だから本当に何言ってるか分からなかった。
「はい、はーい!これから俺と藍は彼氏彼女の関係です!」
「はあー?!本当になんなの?私の時間を握りつぶしたいのかな?」
「理由は説明する!ってことでこれから中庭行くよー!」
そう言って勝手に人の手をがっつり掴んで廊下を疾走した。これ私まで怒られるやつだなと思った。
中庭。といっても木が生えてるだけで特に何も無い。前居た場所にはベンチがあって良かったのに。
「じゃあ、本題に入る!」
「宣言しなくても良いから用件早く済ませて。」
「全く!ツンデレになっちゃって!!」
プンスカ怒るという言葉が似合う顔をしていた。
「別に。時間が無いの。私には時間が無い。のであんたと関わる暇があればバレーのこと考えてたいし、いつも通りを過ごしたい。それに、」
私が言いかけた時。遮った。
「ALS。筋萎縮性側索硬化症。藍の病気でしょ?いつまでバレーが続けられるか分かんない。不安でしょ。」
図星だ。何も言い返せない。いつ私の体は動かなくなるか分からない。だからそれまで平凡でバレー漬けの毎日をどうしても送りたいのだ。
「なんで、あんたが知ってるの?」
遥斗がゆっくり口を開く。
「俺たちは知り合いだ。」
衝撃的な一言をゆっくりと放った。その口で。
その夜はなかなか寝付けなくてASMRを聞いてやっと寝れた。あの衝撃的な一言の後、私を助けるかのように予鈴が鳴ってくれた。私は逃げるように去った。
私はあの後の言葉を知らない。なんとなく、まだ知りたくはなかった。
いつか、知れば良いか。とまだ思っていた。
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