透き通るほど淡い思い出に。

山下かりうむ

第1話プロローグ

 淡い色の思い出。本当に透き通るような思い出。はっきり思い出せない思い出。何もかも忘れてしまった私に残ったのはバレーボールだけ。私が思い出せるのはこの丸くて黄色いボールだけ。それだけが心の拠り所となった。もはや人なんてどうでもいい。いつか朽ちる関係。いつか朽ちる体。なのだから自分の好きなことに打ち込めば良いことを。

 ピピピピッピピピピッ

 リズム良く目覚ましが鳴る。流石に転校初日に遅刻はまずいだろうと思ったら末、私はいつもより30分早く起きた。いつも通りご飯を食べて、いつも通り着替えて、いつも通り薬を飲み、いつも通り走りながら学校へ行く。

 私のいつも通りはいつ終末を迎えるか分からないのだからいつも通りを楽しむ。今日以外は。

「おはようございます。転入生の江原藍です。

私はバレーに打ち込むためにここに来ました。なので必要以外は別に話さなくて良いです。」

硬く鍵を打つ。私のいつも通りが壊れないように、変わらないようにするために。


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