アスカ -Asuka-

みかろめ

二人の剣士

プロローグ・Ⅰ 帝歴279年

 大陸の北西、海からやや内陸寄りにエルンという国があった。小国ながらも優れた魔法技術で他国と渡り合っていたが、ここ数年で状況はかなり厳しいものになっている。というのも、南側に面しているメシュドドと戦争になり、開戦当時こそ優勢にあったが徐々に劣勢へと追い込まれたからだ。


 開戦後の初となる大戦を勝利で収めたのはエルンだった。それ以降、リグアイア王を始めとしたエルン上層部はこの戦争は早期に自国の勝利で終結するだろうと楽観視していた。しかし戦争は早期に決着がつくどころか長引き、先の大勝利が霞むほどの敗北を重ねていった。


 開戦のきっかけはメシュドドの領土内でエルン人による密猟が発覚したためである。メシュドドは友狼ゆうろう国家と言われるほど、魔獣であるフェンリル(犬の形をした大型の魔獣)を友人、もしくは家族のように扱っている。

 近年、エルンではフェンリルの素材は希少価値が高く魔道具マジックアイテムの生成には欠かせず、需要が絶えなくなった。


 元々仲の悪かった両者が戦争に発展するまでそう時間はかからなかった。


 メシュドドは広大な平地を領土に持つ国であり、『メシュ』は数字の三を意味し、『ドド』には偉大なという意味がある。聡明な『セドド族』、勇敢な『ランドド族』、忠実な『ヒリドド族』の三大部族が中心となって納めている国である。

 彼らの生活スタイルは遊牧が基本であり、幼い頃から男女問わず狩りを教えられる。そのため戦場に出る女性の数は他国と比べてみても圧倒的に多い。また、獣人とも交流があり、国を持たない彼らの受け皿としての役割も担っている。


 エルンには奴隷の文化があり、おもに獣人などが売買されていた。このようにメシュドドとは昔から折り合いが悪く、開戦した理由の一つになっている。

 リグアイア・ベッソ・エールンを王に置く封建制の国で、王都グラニュールには優れた魔法使いを数多く輩出してきた『魔法学校アカデミー』と呼ばれる建築物があった。このアカデミーは入学できる者の年齢・種族・出身国は制限されておらず、魔法に対する意欲と厳しい試験を通過することさえできれば、奴隷扱いされている獣人はもちろん誰もが通うことができるというものだった。そのためアカデミーの敷地内にのみ適用される法律も存在する。


 両国の戦争を静観していた隣国のカッカリアが突如としてエルンへと増援を送ったものの状況は好転せずに撤退。

 六年に及ぶ戦いの末エルンは北部を残し、国土が大きく縮小することとなった。

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