討伐完了

 人間の姿に似た、というよりは鬼のような姿の超兄貴キングオークはそっと近づき倉庫の中の様子を窺い、戸口から匂いを嗅いで中にいる人間の情報を探る。


(若い健康な女が三人。みんなバラバラに動いている。一人はこの扉のすぐ奥にいる。それにしても良い匂いだ。これは色々と美味しくそうだ)


 匂いで興奮した超兄貴キングオークは、直也への復讐のことすら忘れてしまい今や三人の女をどうやっていたぶってやろうか、どうやって犯してやろうか、どうやって食ってやろうか、どうやって殺してやろうかと頭が一杯であった。


(とりあえずは、この戸の向こう側にいる女を捕まえてやるか)


 超兄貴キングオークは全身に力を籠めると、倉庫の戸を突き破りそこにいる女へ飛び掛かった。



「いらっしゃいませぇ!」


 待ち構えていた直也の従者アスこと元魔王こと元魔王のアスは嬉しそうにそう言うと、飛び掛かってきた超兄貴キングオークの腕をすり抜け正面に立つと、興奮のために少し勃起していた股間を激しく蹴り上げた。


 グシャ!


「ヒィグゥ、オー!」


 カウンターの勢いで股間を蹴られた破壊された超兄貴キングオークは堪らずその場に倒れ込み、両手でボールだった者達を抑えている。その手からは赤い血が沁みだし、しっかりと破壊されたことを物語っていた。

 もはや超兄貴ではなくなってしまったオークキングの悲鳴を聞き、サクヤやリーシェがアスのもとへと集まって来た。


「何かが近づいて来たのは気づいていたけど、これって?」


「えっと、それだけですか。私の心配なんかはしてくれないの?」


「なんで? 竜種を一撃死させるあなたの何を心配しろと」


「そんな感じなの、私って?」


 サクヤはアスの力を信頼しているようで、あっけらかんと言い放った。アスは、そういえば最近は余り力を隠さず結構な力を使って冒険者してたなと思う。竜倒したり、アンデット倒したり、B・A級のモンスターの集団倒したり、そういえば元S級の冒険者のギルマスもやったことがあったな。楽しかったから良いけど。


「こいつはさっきご主人様から逃げ出したオークキング。私達に酷いことをしようとしていたんだよ」


 アスは何もなかったかのように直也から得た情報を基にサクヤとリーシェに話を始めた。どうやら二人もオークキングの接近に気が付いていたようでとても落ち着いていた。


「コマンドポストへ。チェイサー3です。現在オークキングと接敵し、交戦中オーバー」


「コマンドポスト了解。チェイサー3へ、悪いがこちらも少しあって応援にはいけない。替わりにハンター2をそちらに急行させている」


 イズナの言葉の後にシュッと天上からマリーが現れ、倒れているオークキングの近くへ降り立った。


「チェイサー3了解。ハンター2確認しました。オーバー」


「コマンドポストより各員へオークキングは確実に仕留めなさい」


「「「「「了解×4」」」」


 オークキングは股間から血を流して蹲りつつも、何とかこの状況からこの場の様子を窺っていた。油断していたとはいえこの自分の防御を抜いて股間を破壊するなんて信じることが出来なかった。しかもこの中で一番幼い少女が、である。


(幼女は駄目だ強すぎる。あの姿はまやかしだ。では、この人間の女はどうだ。突然現れたと思ったらすぐ手の届く所に居やがる。俺をなめやがって、お前から喰ってやる!)


 オークキングは痛みを堪えて素早く起き上がると、目にもはとまってしまう位の速さでマリーの首筋を目掛けて突進した。


「遅い、斬」


 オークキングの行動はマリーにとって想定の範囲であり、筋肉の動きや気、魔力の流れを監視していたため、攻撃をさけて切りつけるのも容易であった。


「ギャー、俺の腕、俺の腕が!」


 オークキングはマリーに肩から先の右腕を切り落とされていた。切り口からは噴水のように血が噴き出ている。


「止血を、早く止血を」


 オークキングは、斬りつけられた右腕の断面に魔力を集めて応急処置の止血を始めた。どうやら魔力で傷を抑えつけているようだ。


(忍者か、忍者なのか? 駄目だ。まずいぞこのままでは俺は死んでしまう。早く血肉を喰わないと。そうだ、あの女が良い。あいつは多分術士だろう。懐に入りさえすれば)


 オークキングは、今度はサクヤを狙いことにした。しかし、思っていたよりも出血やダメージが大きかったらしく、今回はゆっくりとしか歩けない。頭もボーっとする。


「喰わせろ、お前の血肉を喰わせろ」


 ヨタヨタとふらつきながら内股でゾンビのように歩きサクヤに近づくオークキングの前に、突如光り輝く魔法陣が現れた。


「汚い手で、僕の嫁に手を出すな」


 魔法陣から現れたのはフェンリルのフェル。フェルは現れるとすぐさま氷結魔法を使ってオークキングの体を氷漬けにしてしまった。オークキングはもう死に体で意識すら失いそうでいた。段々と薄れていく意識の中で、オークキングは考えた。どうしてこうなったのか? 


(あの女達ではなく、あのエルフを犯して喰っていれば・・・)


 思考も低下し、そんなことしか考えられなくなったオークキングはリーシェに向かい、凍り付いた唇を動かした。


「ヤラせろ」


 瞬間、光が走りオークキングの胸を貫いた。リーシェがアスとの厳しい修行を乗りこえて身に付けた技、霊弓波弾。弓が得意エルフのリーシェが、霊気を流した弓で自分の霊気で作った矢を弾丸のように飛ばす技だ。


「私は人妻で大事な夫が居るんです。不倫なんて絶対に嫌です」


 リーシェの霊弓波弾で胸を貫かれたオークキングは、「悪食」魂食いの業を背負い、深い闇の底へ永劫の地獄へと落ちて行った。




「終わったようだな」


 イズナはオークキングの気が消えたことに気が付いた。現在イズナは直也と共にオークの少女への対応に当たっていた。直也に遅れて人に似た姿をしたオークの少女のもとに来たイズナ。

 オークの少女はモフモフの耳と尻尾をした獣人の姿をしたイズナを見ると、直也の胸から弾かれたように飛び出してイズナの大きな胸に抱き付き安心したように眠ってしまっていた。


 直也はイズナの胸に抱かれて眠るオークの少女を悲しそうな顔で見ながらイズナに言った。


「この子は僕が育てようと思う」


「直也様・・・」


 二人はそのまましばらくの間、無言でオークの少女を見つめていた。





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